Scene.38 本屋はときに艶っぽい!
高円寺文庫センター物語㊳
「♪ほんの少しばかり 遠出したくなった 今夜の俺は どこへ行くのだろか♪」
「店長。なんば歌っとると、行き先はバーボンハウスばい」
「なんね。気分よく浅川マキを鼻歌で、よかやろ。
あ、もうPAL商店街の入口でストリート・ミュージシャンが歌ってるの、よかね」
「かつてのフォークゲリラの血が騒ぐと?
店長もストリート、やったらよかやないの」
「なんば言いよっと、もうコードも覚えとらん。
つうか、この中通りの入り口辺りは好きやな。THE 古本屋な都丸書店があって、すぐにピンク街って高円寺ならではばい」
「お、店長と内山さん。どこに行くの?」
「大原さん!
『抱瓶』から出てきましたね」
「たまに『抱瓶』のゴーヤーチャンプルーと角煮、オリオンビールで酔いたくなるの」
「出来上がってますか?!
この先の、バーボンハウスに行くんですよ」
「知らないけど、付いて行っちゃう!
ここここ、中華屋の『味二番』って一番はどこなのよね。でも、まだまだ歩くの。寒くって酔いも醒めちゃうじゃない」
中通り商店街もどんづまり、阿佐ヶ谷の方が近いんじゃないかという所にバーボンハウスはあった。
バーボンとの初対面の挨拶はOK。トークはクール、高円寺の呑み屋のマスターならこんな感じがいい。
「店長。ちょっとは自信ある、自家製グリーンカレー食べてみて?」
「旨いわ! グリーンカレー。バーボンさん、気に入ったわ!
そうそう店長。おススメの映画『夜を賭けて』、観に行ったのよ。わたしこんな感じだから共感したんだけど、ホント差別ってイヤ!」
「差別する奴は、てめえが差別されたことを狭い料簡で根に持っているでしょうね。そこそこの給料とって、それなりに旨いもん食っているくせにさ!
だいたい、地域とか国とか小さいスケールでしか考えてないのよ。そんな奴に限って、自分は理性的で知的だと思っているんだよね」
「差別的なことを平気でいう奴って、差別された経験がないか、差別された恨みを転化したくてしょうがないか、よね」
「人間、せいぜい80年の在地球じゃないですか。その程度で、地球並びに宇宙に不遜な発言するなよってことです!
千年単位で地球とニッポン村を考えて、言えですよ」
「内山さん、店長は酔ってるの?」
「いっつも、こんな感じばい。バーボンハウスが気に入ったけんが、ご機嫌で話しとると」
「店長。忘年会の人数、まだまだ増えますか?」
「バーボン。ドタキャンならぬ、ドタインが増えちゃって!」
「二階、50人も入ったら床が抜けるかも?!」