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ユーラシア大陸のすべてを掌握する大帝国の復活計画【世界征服ラジオ#3】中田考×えらいてんちょう

ハサン中田考×えらいてんちょうの【世界征服ラジオ】#3

■世界征服の中級者向け教科書は『キングダム』

 

E:そういえば、トルコの話をしていたのでしたね。

H:今のトルコ共和国というと、ボスフォラス・ダーダネルス海峡を挟んでヨーロッパとアジアに跨っている国、と言いますよね。

E:聞いたことありますね。

H:でも、本当はヨーロッパとアジアの境目なんてないんですよ。地理的にはヨーロッパとトルコは繋がっているんでどこにも自然の境界はありません。ヨーロッパとアジアを分けるのは、西欧人たちが創り出した人種差別意識の表れでしかないんですが、それは今日のテーマではないのでスルーします。

E:トルコはヨーロッパの国でもあると。

H:でもトルコ人はどこから来たのかというと、中国から来たんです。世界征服の中級者向け教科書に『キングダム』というマンガがあります。

E:いきなりですね・・・『ヤングジャンプ』に連載されている原泰久の人気漫画ですね。

H:そうです。それに趙の国の宰相李牧が登場します。すごくかっこいいんですが、最初に利牧が出て来るシーンというのは、20万人の匈奴を全滅させた謎の戦いの天才としてなんです。それでこの匈奴というのがトルコ(チュルク)系とも言われていますが、モンゴル高原あたりに住んでいた遊牧民です。文字を持っておらず自分たちの歴史を書き残していないので正確なところは分かりません。遊牧民の蛮族たちが攻め込んでくるのを防ぐために作られたのが「万里の長城」です。

E:万里の長城の外側に住んでいたのがトルコ人だと。

H:トルコ人というよりも遊牧民ですね。はっきりとトルコ(チュルク)系だと分かっているのは、時代はだいぶ下って6世紀に中国の史書に現れる「突厥(とっくつ)」です。「突厥」は「チュルク」の漢字での音写です。トルコ人の祖先もモンゴル高原でモンゴル人の祖先と混じりあって暮らしていました。どちらもアルタイ語系でもともとは一つの祖語から分岐したと言われています。現代では互いに言葉は通じないのですが、文法構造などは非常に似ています。

 それでモンゴル族が12世紀にチンギス・ハンによって統一され、世界の大征服の遠征に乗り出すわけです。13世紀の終わりに日本に攻めてきたのが元寇ですね。ヨーロッパにも攻め込み、もう少しで征服されるところでした。モンゴル帝国の世界征服を食い止めたのが、当時エジプト・シリアを支配していたイスラーム王朝マムルーク朝ですね。先ほどお話した1517年にオスマン帝国によって滅ぼされたあのマムルーク朝です。

E:それでオスマン帝国によってカリフがカイロからイスタンブールに連れていかれた、という話でしたね。

H:そうです。そのチンギス・ハンの世界征服で中国に建てたのが、元朝だったわけですが、西に向かって最初にぶつかるのは中央アジアにあったチュルク系のムスリム王朝だったのですが、それらを次々と破って、降伏したチュルク系の兵隊を組み込んで西へ攻め入って1258年にはアッバース朝カリフ国の首都バグダードを攻略してカリフを殺害します。そのアッバース朝のカリフの一族を保護したのがカイロのマムルーク朝だったわけです。

 そしてこのモンゴル人の侵略者をイスラーム世界ではタタールと呼んだのです。

E:タタールって、モンゴル人だったんですか?!

H:実はチュルク系諸民族はモンゴル人たちより先にイスラーム世界に移住して住み込んでいて、特に精強なチュルク系の兵士はイスラーム世界の軍事の中核になっていました。モンゴル軍の征西を食い止めたマムルーク朝を樹立したのもチュルク系の軍人でした。だからチンギズ・ハンの遠征軍のモンゴル人たちは、一、二世代のうちにチュルク系の先住民に同化してしまいます。

E:もともと文化的にも言語的にも近かったので同化しやすかったんですね。

H:そうです。このチュルク化したモンゴル人たちをイスラーム世界ではタタールと呼んだのですが、他にもモゴールという言い方もあります。

E:モゴール、モンゴル・・・言われてみれば似てますね。

H:インドのムガール帝国の「ムガール」もこの「モゴール」と同じです。

E:ムガール帝国って、モンゴル帝国だったんですね。

H:まぁ、そうも言えます。ムガール帝国はともかく、モンゴル高原から移動したチュルク系の諸民族は、シベリアなどにもごく少数は居ますが、大半は中央アジアに移動しました。8世ごろからの中央アジアへのチュルク系の民族移動はモンゴルの征西で加速しました。今では東は中国の新疆ウイグル自治区からキルギスタン、カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、アゼルバイジャンを介して西はトルコ共和国まで、ユーラシアに2億人弱のチュルク系民族が住んでいます。更に言うとそれに怪しいトランスユーラシア語族まで入れるとフィンランド、ハンガリーとかにまで住んでいます。

E:ユーラシアのヨーロッパと中国を除いた全て、みたいな・・・

H:そうそう。それとトランスユーラシア語族つながりで日本からウズベキスタンまで広がる朝鮮民族を通じてチュルク系諸民族と繋がれば、日本人にもユーラシア制覇、世界征服の夢が膨らむと言うわけです。

E:なるほどね。

H:広い意味でのトルコ民族と繋がることで世界征服ができる、ということを地理的に非常に分かりやすく説明できたと思います。

E:というわけで今日は、世界征服とトルコ、世界征服と地政学、ということでお送りしました。今後も世界征服ラジオは、雑多なテーマで世界征服についてお送りしていきます。よろしくお願いいたします。

 

(つづく)

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中田考/えらいてんちょう

なかた こう えらいてんちょう

中田考 なかた・こう

イスラーム法学者。一九六〇年生まれ。イブン・ハルドゥーン大学客員教授。八三年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、二〇代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。近著に『イスラームの論理』、『イスラーム入門』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『みんなちがって、みんなダメ~身の程を知る劇薬人生論』、『タリバン 復権の真実』など。

えらいてんちょう(矢内東紀 やうち・はるき)

経営コンサルタント、YouTuber、作家、投資家。19901230日生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。バーや塾の起業の経験から経営コンサルタント、YouTuber、著作家、投資家として活動中。201510月にリサイクルショップを開店し、その後、知人が廃業させる予定だった学習塾を受け継ぎ軌道に乗せる。2016年には地元・池袋でイベントバー「エデン」を開店させ、事業を拡大。その「エデン」が若者の間で人気を呼び、全国展開する。初著書『しょぼい起業で生きていく』(イースト・プレス)を発売し、ベストセラーに。朝日新聞ほか多くのニュースメディアで取り上げられたことで男性女性から幅広く支持されている。KKベストセラーズから『しょぼ婚のすすめ』『ビジネスで勝つネットゲリラ戦【詳説】』『静止力 地元の名士になりなさい』『「NHKから国民を守る党」の研究』が刊行されている。

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