統一教会による金銭トラブルは「日本人の宗教観」に由来する理由【中田考】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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統一教会による金銭トラブルは「日本人の宗教観」に由来する理由【中田考】

ハサン中田考が語る「安倍暗殺と統一教会」《特別寄稿:後編》

 

■日本は、欧米の宗教色の強い政策に巻き込まれその財布される国

 

 つまり、国際的にみると、日本は欧米陣営にあるために、欧米の極めて宗教色の強い政策に巻き込まれ、その財布として利用される立ち位置にあるということです。アメリカが主導しタリバン政権を崩壊させたアフガニスタン侵攻とその後の20年にわたる復興支援は、アメリカがタリバンと単独撤兵合意を結び2021815日にアメリカ軍の完全撤収を待たず「国際社会」が20年にわたって育てたアフガニスタン・イスラーム共和国のアシュラフ・ガニー大統領が他の閣僚を見捨てて単身逃亡し、その日のうちにタリバンが首都カブールに無血入城し、政府業務を開始したことで完全な失敗に終り、5億ドルに上る日本の支援金も水泡に帰しました。

 イラクのクウェート侵攻に対してイラクと多国籍軍が戦った湾岸戦争やアフガニスタンにおけるタリバン政権とアメリカの20年にわたる戦争の例のように、世界には国際政治をも動かす宗教「原理主義」運動が数多く存在し、日本もこれまではキリスト教欧米諸国の属国としてそれらに巻き込まれてきました。

 日本は宗教的にも政治的にも国際的な影響力はありませんが、衰えたりと言えどもまだ一定の経済力は有しています。それゆえ韓国の統一教会本部に日本支部が集金マシーンとして利用されたように、国際政治において日本は国家や非国家主体に資金提供源として利用されることがあります。

 日本は黒船来航以来、アメリカに従うことで脱亜入欧、富国強兵を実現しアジアではじめて帝国主義列強の仲間入りをし、日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦に勝ってアジアに植民地を拡げました。しかしアメリカに逆らって第二次世界大戦に突入し敗北し植民地の全てを失い軍事占領され、日米安全保障条約で国内に米軍の基地を置かれ属国となって東西冷戦下ではアメリカを盟主とする西側陣営につくことで世界第二の経済大国になりました。しかし思い上がってアメリカに挑戦したため(日米貿易戦争:1980-90年代)叩き潰され、その後急速に凋落し中国、インドに追い抜かれ東アジア諸国との差も縮まり経済大国の地位も失いつつあります。

 前述の通り、欧米の社会科学はリベラル世俗主義ナショナリストがヘゲモニーを握っていますが、日本の国際政治学者や地域研究者たちの多くはフルブライト奨学金のような欧米の資金で育てられ、欧米、特にアメリカで学んでおり、欧米の価値観を内在化しています。

 そして現行の国際秩序は、欧米列強が植民地支配時代の搾取構造を温存し既得権を維持するために作られた不正な体制です。そして日本はアメリカに服従し欧米列強に同調する(G7)ことでこの不公平な体制の中で搾取する受益者の立場にいます。それゆえ第二次世界大戦、日米貿易戦争でアメリカに逆らい敗北した失敗体験から、日本の国際政治学者や地域研究者が、アメリカに追随することで、この不正な領域国民国家システム内での有利な地位を保つべきであると考えるのも無理からぬことは、筆者も理解しています。

 しかしアメリカの覇権の不可逆な長期凋落傾向は明白であり、一方で現行の欧米に有利な不正な「国際秩序」の再編を目指す中国、ロシアが新たな「帝国」として台頭しつつあることで、人類は先行きが見通せない混迷の時代を迎えつつあります。そうした状況下で、過去の成功体験に「居付き」、既得権にいたずらにしがみついていては、時代の趨勢を見誤り、没落を早めることにもなりかねません。そうならないためにも、我々はここで一度立ち止まって、日本的な宗教理解のマインドセットと欧米のリベラルな世俗主義を相対化し考え直してみる必要があると筆者は信じています。

(了)

 

文:中田考

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中田 考

なかた こう

イスラーム法学者

中田考(なかた・こう)
イスラーム法学者。1960年生まれ。同志社大学客員教授。一神教学際研究センター客員フェロー。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、20代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。著書に『イスラームの論理』、『イスラーム 生と死と聖戦』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『増補新版 イスラーム法とは何か?』、みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論、『13歳からの世界制服』、『俺の妹がカリフなわけがない!』、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』など多数。近著の、橋爪大三郎氏との共著『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)がAmazon(中国エリア)売れ筋ランキング第1位(2021.9.20現在)である。

 

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