ベルギーでのテロで戦々恐々<br />次は標的は日本か?【1/2】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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ベルギーでのテロで戦々恐々
次は標的は日本か?【1/2】

『イスラム国「世界同時テロ」』の著者・黒井文太郎氏に聞く、イスラム・テロの現状、そして今後。

『イスラム国「世界同時テロ』を刊行した軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏に、編集部が直撃インタビュー!

Q1.昨年11月のパリ同時テロ以降、今年に入ってもインドネシアやカリフォルニア、トルコ、さらに今年3月のベルギーと、IS関連のイスラム・テロが続いています。

『イスラム国「世界同時テロ」』(ベスト新書)という本を出されましたが、この傾向は続くということでしょうか?

黒井「ISの登場は画期的なもので、世界中のイスラム教徒の一部に強い影響力を持っています。ですから、ISに賛同する過激派が世界中で盛り上がりつつあります。

とくに昨年のパリ同時テロ、先月のベルギー同時テロが大きく報道されたことは、ISの支援ネットワーク人脈に繋がっている細胞ばかりでなく、ISにシンパシーを持つ世界各地のIS支持者たちに『自分たちも後に続きたい』という強い衝動を与えています。したがって、今後も世界のあちこちで、ISに共鳴したテロが頻発することは確実といえます。

彼らがやっていることは、私たちからみれば『テロ』=すなわち犯罪ですが、彼ら自身では正しい『ジハード』=聖戦と考えています。こうしたテロ志願者たちは、自分たちは一種の革命運動に参加しているとの強い熱意を持っています。

そして、今は彼らの革命運動が勃興期にあります。例えて言えば、幕末の攘夷運動に参加する志士のような気分なわけです。こうした熱情は連鎖反応を引き起こしながら、しばらくは燃え広がり続けるでしょう。

テロリズムは、例えばかつての極左テロもそうでしたが、同じような性質を持っています。現状への不満から一時は国境を越えて広がり、一部では革命を成就する場合もありますが、全体的に見れば暴力が現実を好転させることはほとんどなく、むしろ時間とともに先鋭化して大衆から乖離し、自滅していきます。

こうしたサイクルは、感染症の大流行=パンデミックに似ています。ISという宿主によって、現在はイスラム・テロの大流行期に入ってしまったといえます」

パリ同時多発テロの実行犯たち

Q2.現実に、世界規模で「同時多発テロ」が考えられるということでしょうか?

黒井「その通りです。それは世界各地のテロ志願者たちが連携して同時多発テロを起こすのではなく、世界各地のテロ志願者たちが互いに刺激を受けながら、より話題性の高いテロの実行を競争するような感じです。

ですから、世界規模の同時多発テロというイメージよりは、世界規模のテロの連鎖といったほうが正確です。

 

Q3.極東の日本から見ていると、中東地域の政治状況は複雑で、なにがなんだかわかりません。このテロの世界的連鎖の原因は何なのでしょうか?

黒井「偶然が重なって、ISというイスラム・テロ界でのヒーローが誕生してしまったことが根本的な要因です。

イスラム・テロの思想自体は、イスラム世界の一部に常に存在していますが、通常は現実社会という大きな世界の中に埋もれ、さほど勢力は拡大しません。ところが、2014年にイラクとシリアで、ISが驚異的な軍事的成功を収め、広大な領地を支配するに至りました。

それはISにとって、たまたま自らに有利な出来事が続いたことが原因です。それまでのISというのは、イラク西部の小さなゲリラ組織のひとつにすぎなかったのです。

まず初めに、イラクで2011年末に米軍が完全撤退した後に、残されたシーア派政権が、同国西部に居住するスンニ派を大弾圧しました。そのため、スンニ派住民の間で、シーア派に対する憎悪が生まれ、ISはその一部を吸収します。また、米軍の追跡から逃げきった旧サダム・フセイン政権時代の元軍人らが多数、ISに合流します。

また、アラブの春の流れから2011年3月にシリアで反政府運動が発生し、同年後半には反体制派が武装して内戦が勃発します。そして、独裁政権の暴虐から住民を守るべく、世界各地から義勇兵が集まります。翌2012年にはイスラム過激派系の反政府軍が台頭し、そうした外国人義勇兵の多くもそうした勢力に加わります。ISはそうした人脈から戦闘員を集め、いっきに兵力を拡大します。

決定的だったのは、そうして拡大したISが、2014年6月にイラク西部で蜂起したとき、イラク政府軍が戦わずに逃走してしまったことで、ISがイラク政府軍の近代的な武器を多数入手したことです。ISがシリアとイラクで広大な領地を確保することに成功したのは、べつにその地でイスラム過激思想が自然に広まったということではなく、このように偶然が重なった結果です。

しかも、ISはそこでカリフ制国家を宣言し、将来の世界制覇を公言します。まさに革命の宣言です。

それは、各地のイスラム世界の潜在的過激派に大きな希望を与えました。たとえば、それ以前のイスラム過激派の中心的存在だったアルカイダは、9・11テロで過激派のヒーローになり、世界中に支持者を広げましたが、アメリカの追撃でパキスタンの山間部に逃亡し、それ以上勢力を広げることはできませんでした。欧米のキリスト教が主流の社会の影響力を駆逐し、イスラム法に則った社会を世界に広げようという過激派の望みも、実現不可能な夢のまた夢だったわけです。

ところが、ISはカリフ制国家を自称する広大な領土を、現実に作り上げたのです。しかも、そこから世界中のイスラム教徒に対し、自らのカリフ制国家に参加せよと広く呼びかけた。これは夢物語ではなく実現可能な革命事業だ、と多くの潜在的過激派が感じたことが、世界的にテロが連鎖するそもそもの背景です。

もちろんISには外国人戦闘員から広がる海外の人脈がありますし、さらにはメディア戦略に長けた外国人メンバーがインターネットを駆使した勧誘活動を展開していますが、それだけが世界中での支持者獲得、さらに世界各地でのテロの主要因ということではありません。リアルなイスラム国家を実現した事実、それこそがIS支持者が世界中に蔓延した主原因であり、ISに共鳴したテロが頻発する原動力なのです」                 (続)

 

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  • 2016.03.09