ネット社会が生み出した “日本の影の支配者=統一教会” という虚像【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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ネット社会が生み出した “日本の影の支配者=統一教会” という虚像【仲正昌樹】

 

■舛添要一氏のド素人発言とジャーナリズムの絶望的な劣化

 

 こんなことは日本の政治の歴史を少しでも勉強したことのある人なら、すぐに気付いてしかるべきだが、政治のプロであるはずの人たちでさえ、マスコミや統一プロに誘導されて、ド素人発言をしている。特に、目立ったのは、舛添要一氏の九月十三日のツイートだ。曰く、

 

「統一教会の問題は、支援された議員が政策までもこのカルト集団の考えと同じにすることである。たとえば、個人よりも家庭の重視、男女別姓反対、LGBT敵視という政策だ。それは憲法改正案にまで及んでいる。議員は政策が命ではないのか。安倍政権になって、日本の右傾化が進んだことの背景がこれである。」

 

 こんな雑なことを、自民党政権で厚労相を務め、都知事にまでなった著名な元政治家、そしてかつて、東大の助教授時代、政治学の若手ホープで駒場一の切れ者かと言われたことある人がツブヤクのだから、情けない。彼は、自民党をどういう政党だと思って所属していたのか?

 劣化しているのは舛添氏だけでない。祝電とかイベント参加など、どう霊感商法と繋がっているのかよく分からない些細な“問題”をめぐる騒動が続いている責任は、自分がどのような考えで、旧統一教会や関連団体と協力するようになったのかきちんと説明しないで、「旧統一教会とは知りませんでした」、と見え透いた言い訳をしている議員たちにもある。

 自分が確固とした政治信念を持って活動していて、それと、旧統一教会が掲げている運動目標が重なっていたので、協力できると思ったのであれば、どちらが先か説明できるはずである。旧統一教会が問題含みの宗教であることは知っていても、自分に〇〇の政策実現のために協力してくれる信者たちは、それに直接かかわっておらず、連帯責任を問う必要はないと思ったのであれば、そう言えばいいのである。

 そういう当たり前の説明ができないのは、強い信念を持たないで何となく保守層にウケそうな政策を掲げているだけで節操がないから、そして、特定の宗教や思想を持つ団体とどう付き合うべきかちゃんと考えたことがないからだろう。私が統一教会にいた頃の自民党の政治家には、シベリア抑留経験者など、自らの経験に基づいた強い反共の信念をもって、勝共連合と付き合っていた人もいた。「あの宗教はうさんくさいけど、反共の戦いのために必要な団体なので、付き合ってやっている。宗教のせいで、おかしなことをやるようなら、俺が教育してやる」、というような強気の態度を取っていた人もいる。自民党は表面的に保守傾向が強まっているようで、実際には、あまり信念なくビジネス右翼的に振る舞っている人が増えているだけかもしれない。

 今回の騒ぎで最も劣化を感じたのは、マスコミ、特にテレビ報道である。旧統一教会のやっていることが疑問だらけだとしたら、教会側に答えてほしいことを番組内で質問として投げかけ、回答を待つべきである。まともに回答しないかもしれないが、次の放送の時に、「回答はありませんでした」、と伝えるべきである。

 無論、そういうことを一つ一つやっていると時間を食う。「仲正はまだ…」とすぐにわめき出すような輩は、つまらないので、「無駄に時間を使いすぎ」「トーイツの答えなんかいらない」と騒ぎ出すだろう。それで、スタジオにいるトーイツの専門家に、旧統一教会の考えていそうなことを、おどろおどろしく代弁させる。当事者が出てくるとしても、脱会して明確に反教会の立場を取っている匿名の元信者たちだ。レベルの低い視聴者はそれで満足する。翌日は、似たような次のネタに移っていて、前日どういうやりとりをして、どういう“結論”を出したか振り返ることはない。新聞や雑誌も基本は、同じだ。

 騒ぎの焦点になっている当事者にしつこく返答を求めないで、報道と言えるのだろうか。反トーイツの立場の人以外、統一教会糾弾番組に出演させるべきでない、などと無茶苦茶な主張をしている老害ツイッタラーであれば、「トーイツの人間は、どうせ洗脳されているので、有害な宣伝しかしないので、呼ばない方がいい」、と言うだろう。その手の輩はもう治りようがないだろうが、そういうのに迎合して、面倒くさい手間を省くのは、ジャーナリズムの死だ。どんなに話が通じない相手でも、しつこくいろんな角度からアプローチし、ちょっとでも反応したら、それをきちんと伝え、その意味するところについて客観的に分析してこそ、ジャーナリズムではないのか。

 

文:仲正昌樹

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✳︎重版御礼✳︎

哲学者・仲正昌樹著
大好評『人はなぜ「自由」から逃走するのか:エーリヒ・フロムとともに考える』KKベストセラーズ)

 

「右と左が合流した世論が生み出され、それ以外の意見を非人間的なものとして排除しよ うとする風潮が生まれ、異論が言えなくなることこそが、全体主義の前兆だ、と思う」(同書「はじめに」より)
ナチス ヒットラー 全体主義

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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