【連載】適菜収 死ぬ前に後悔しない読書術
〈第8回〉三島由紀夫の読書論
哲学者・適菜収が「人生を確実に変える読書術」の極意を語る!
「読書で知的武装」するなんて実にくだらない!
「情報を仕入れるための読書」から、いい加減、卒業しよう!
ゲーテ、ニーチェ、アレント、小林秀雄、三島由紀夫……
偉人たちはどんな「本の読み方」をしていたのだろうか?
正しい「思考法」「価値判断」を身に付ける読書術とは?
哲学者・適菜収が初めて語る「大人の読書」のススメ。
第8回
三島由紀夫の読書論
三島由紀夫が「若者が陥りがちな読書」について述べています。
これは典型的な「子供の読書」です。
現実逃避、自己正当化、知的武装のための読書、即物的な刺激を求める読書ですね。
三島は続けます。
三島はこうした読書を全否定したわけではありません。
かつて子供でなかった大人はいない。
三島が言っているのは、たくさんの砂を篩ふるいにかけて砂金が残るように、最後には一点のよいものが残ればいいということです。
そこで若者は目が覚める。
そのときに初めて「大人の読書」に変化する可能性が生まれる。
こうした経験をもたない人が、とりかえしがつかなくなっていくのです。
一流の文学は読者に媚びるのではなく「ノウ」を突きつける。
文学は美しい物語ではありません。
三島は「純文学には、作者が何か危険なものを扱っている、ふつうの奴なら怖気(おじけ)をふるって手も出さないような、取扱いのきわめて危険なものを作者が敢(あえ)て扱っている、という感じがなければならない」と言います。小説の中にピストルやドスや機関銃が現れても、何十人の連続殺人事件が起こっても、作者自身が身の危険を冒して「危険物」を扱っていなければならない。
その危険物とは、美でもいいし、家庭の平和でもいい。ありきたりの情事であってもいいし、又、殺人であってもいい。子猫の話でもよし、碁将棋の話でもいい。しかし第一条件は、それが危険なことである。
文学は本質的に危険なものです。
自分の足場を破壊する。
自分の主張を温かく包み込んでくれるものではなく、作家の目を通して捉えた世界をそのまま見せつける。
三島は言います。
〈第9回「理由は聞くな、本を読め」につづく〉
著者略歴
適菜 収(てきな・おさむ)
1975年山梨県生まれ。作家。哲学者。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『日本を救うC層の研究』(講談社)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克』(文春新書)など著書多数。