メイウェザーに花束投げ捨て 奥野卓志への批判が未だ収まらない理由【篁五郎】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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メイウェザーに花束投げ捨て 奥野卓志への批判が未だ収まらない理由【篁五郎】

「見てはいけないものを見てしまった」 「見たくないものを見せられてしまった」メイウェザーへ花束を投げ捨てるという想定外の行為が、日本人はもちろん世界中の人々の心を深く傷つけた。この騒動から学ぶべきことがあるとすれば、「世の中には取り返しのつかないことがある」という当たり前のことではないか・・・

 

■「日本人の恥」として全世界に生配信された出来事

 

 2022年9月25日にさいたまスーパーアリーナに行われた「超RIZIN」メインイベント、フロイド・メイウェザー対朝倉未来戦の試合前に、メイウェザーに手渡しするはずの花束をマットに投げ捨てる暴挙を働いた奥野卓志への批判が止まらない。

 歌手のきゃりーぱみゅぱみゅボクシング世界チャンピオンの井上尚弥総合格闘家の皇治など多くの著名人も奥野の行為を批判した。朝倉未来の弟・海も「止めて欲しかった」と述べ、奥野と親しいと言われるユーチューバー・ヒカルにまで誹謗中傷が届くほど荒れに荒れた。

 試合後には、RIZINの榊原信行CEOが土下座の謝罪会見までして収拾しようとするが未だに炎上はおさまらない。

 一方で当事者の奥野は、日刊ゲンダイの取材に対して以下のような回答をしている。

 「メイウェザーに対しては以前から日本に金を稼ぎにだけ来ていることに対して思うところがありました。那須川天心と対戦(2018年大みそか)した時なんて“富士山に登りたい”なんて言い出したり、記者会見や公開計量にも平気で遅刻してきた挙げ句、試合直前まで銀座で買い物したりとやりたい放題。まったくルールを守っていないにもかかわらず主催者側は目をつぶった。こんなのスポーツじゃないですよ」

と強気な姿勢を見せていた。日刊ゲンダイの記者から「後悔はないのか」と聞かれると、

 「選手たちの命を懸けた試合よりも“炎上”してしまったことについては率直に申し訳ない。でも、花束を落としたのは商業主義に走るRIZINとカネのことしか頭にないメイウェザーに対する無言の抗議であり抵抗だったんですよ」

 選手への謝罪は口にしたものの、メイウェザーと主催者に対する抗議の姿勢は崩さなかった。

 ところが9月29日にユーチューバー・ヒカルのYouTubeチャンネルに登場。一転して花束を投げ捨てた行為を謝罪したものの、翌日には自身が代表を務める政治団体「ごぼうの党」のYouTubeチャンネルに釈明動画をアップした。釈明の内容は日刊ゲンダイの取材を受けたときとほぼ同じ内容。メイウェザーや主催者への抗議だったと明かした上で、怒りを覚えた理由も詳細に話をした。

 筆者は奥野の謝罪動画と釈明動画を見て二つの違和感を覚えた。それはヒカルの動画と自身の動画での態度が違う点、さらに、炎上騒動を起こした理由だ。

 謝罪動画では、ヒカルが「釈明や言い訳よりもまずは先にしなければいけないことがある」と主張し、奥野も大人しく謝罪している。同時に撮影前に綿密な打ち合わせをしたことも明かしている。ヒカルは奥野と交流があったがために自分にも火の粉がかかった、騒ぎを収めたい、だから奥野の謝罪の場を設けた動画を投稿したのだという。奥野は奥野で炎上が収まらず追い詰められていたのだろう、ヒカルのチャンネルでとにかく謝罪した形を作りたかった、と考えられる。

 実際に自身の釈明動画では、延々と自分の言動は間違えていなかったかのような物言いに終始。メイウェザーに抗議をするためにあの行為をしたこと自体は間違えてはいなかったと言い切り、メイウェザーとRIZIN運営への批判を続けた。花束を投げ捨てた行為が愚かだったと本当に思うならば、潔く謝罪だけすれば終わりだ。釈明動画などいらない。これでは消火ではなく火に油を注ぐようなもので、明らかに矛盾した行為だこれが違和感を覚えた第一の理由である。

 しかもRIZIN運営への批判はあまりにも的外れだ。RIZINは興行会社なのだから大会で儲けを出さないといけない。ビジネスであるのは当たり前だ。メイウェザーというビックネームを呼んだのは、格闘ファン以外の人達にRIZINに興味を抱いて試合の視聴をして貰い、黒字を出そうという意図だろう。

 対戦相手も那須川天心、朝倉未来と世間で名前が知られている格闘家なのを見れば明白だ。そもそも興行で得た利益は、すべて運営の懐に入るわけではない。選手のファイトマネーはもちろん、次に興行をするための運営費に使われるのは子どもだってわかる。

 現在は、コロナ禍で会場に大勢のファンを集めるのが難しい状態が続いている。だからといって興行を止めてしまうと、格闘家の仕事場がなくなってしまう。少しでも利益を上げるためにはペイパービューで、格闘ファン以外の人にも興味を持ってもらうカードを用意しなければいけない状況なのは容易に想像がつく。

 会社経営をしている奥野ならばそうした事情を察して当然だろう。運営側を「商業主義」と責めるのはお門違いもいいところだ。RIZIN運営を批判するのであれば、多額の資産を持つ奥野が新しく総合格闘家が戦う場所を用意すればいい。賛同した格闘家が参戦してくれるはずだ。

次のページあまりにお粗末な釈明はそれだけではない・・・

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篁五郎

たかむら ごろう

1973年神奈川県出身。小売業、販売業、サービス業と非正規で仕事を転々した後、フリーライターへ転身。西部邁の表現者塾ににて保守思想を学び、個人で勉強を続けている。現在、都内の医療法人と医療サイトをメインに芸能、スポーツ、プロレス、グルメ、マーケティングと雑多なジャンルで記事を執筆しつつ、鎌倉文学館館長・富岡幸一郎氏から文学者について話を聞く連載も手がけている。

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