世界征服とお金【世界征服ラジオ#5】中田考×えらいてんちょう
ハサン中田考×えらいてんちょうの【世界征服ラジオ】#5
◆ドルが基軸通貨であるのは本当はおかしい・・・
中田:もともとはドルが基軸通貨、国際決済通貨だったのは、金兌換の裏付けがあったからですね。ところが金兌換を止めてただの紙切れになってしまった。そんなドルが今も基軸通貨であるのは本当はおかしいんです。
えらてん:じゃあ何で今でも基軸通貨なんですか?
中田:惰性ですね。
えらてん:ダセイ?
中田:いや、ダサいわけじゃなくて、「惰性」。これまでやってきたことをだらだら続けることです。
えらてん:基軸通貨って、そんなことでなれるものなんですか?
中田:それまでの金兌換にしても、本当に金と交換することなど滅多にありませんでした。ブレトン・ウッズ体制でも実際の取引は金ではなくドルで行われてたんですよ。アメリカを信頼してドルで決済していたんです。そうやって銀行の国際送金、国際決済の仕組みができていたので、それをそのまま使いまわしたわけです。
えらてん:ハサン先生が子供だった時も、お父さまが金貨で商売していたわけじゃないんですね。
中田:綺麗に輝き錆びることがない金は昔から通貨として珍重されてきましたが、貝殻のようなあまり値打ちのなさそうなものも通貨になっていました。お金というのは、信用というか、共同幻想なんです。
えらてん:みんながお金だと思えばお金だと言うことですね。
中田:そうです。そしてアメリカは第二次世界大戦後の全盛期に比べると衰えたとはいえ、1970年代のアメリカは経済、政治、軍事、科学技術の全ての分野で世界一の超大国でした。特に当時の世界は東西冷戦で、アメリカは西側資本主義陣営の盟主として、西側諸国を引率、支援していましたので、アメリカのドルが惰性で基軸通貨であったのはある意味当然だったんです。
えらてん:アメリカって昔は強かったんですね。
中田:「アメリカが強かった」と言っても今でもアメリカは強いと皆さん思っているかもしれないけど、我々の世代にとってのアメリカは今とは比べ物にならないほど強かったんです。我々の一世代前のアメリカとの戦争を知っている人間たちにとってのアメリカはそれよりももっと強かったんです。というのもアメリカは第二次世界大戦が終わった頃にはアメリカ一国で世界全体を敵に回しても勝てるほどの力があったんですよ。核兵器もアメリカだけが持っていましたし、ヨーロッパは内戦で自滅して、ライバルだったソ連もドイツとの戦いで国の半分くらいが焼け野原になってしまっていましたから。今のアメリカって全然そんなことないんですよね。
えらてん:世界を相手どころか、20年も戦ってけっきょくタリバンにすら勝てなくて、武器を捨てて逃げ出したぐらいですからね。
中田:実は、冷戦期には東の社会主義ブロックにも西側による経済封鎖に対抗し、自給自足体制を確立することを目的としてソ連と東欧諸国を中心として作られた「経済相互援助会議(COMECON)」というものがあり、ソ連が原料およびエネルギーを社会主義諸国に供給していました。コメコン諸国間では通貨の交換性もなく市場原理は働かず、貿易は一種のバーター貿易だったんです。でも東欧革命でソ連の経済が破綻したのでコメコンもなくなってしまったんです。
えらてん:その後は、ドルが基軸通貨であるのをいいことに、気にいらない国に経済制裁と称して、旅行を禁じたり、お金やモノや技術の移転を禁じたり、基本的人権を無視して好き放題なしていますよね。
中田:トランプがイランに対して行った二次制裁[2]が典型ですね。お金というものは、いったんみんながそれを使い始めると、惰性でだらだらと使われ続けていくわけなんですよ。だから原価20円のただの紙切れにすぎない1万円札だって、みんなが使っていると、みんな有難がるようになるんです。まぁ、だからこそ利便性があるんですけどね。
というわけでドルがいったん基軸通貨になってしまうと、あとは金の裏付けがなくなっても惰性で通貨の覇権を維持できるのと同じで、世界征服は一旦征服してしまうと後は楽。だからまず世界征服です。一旦してしまえば後はなんとでもなる。
えらてん:早起きしようみたいな感じのノリで言われても・・・
中田:先にしたほうが勝ちだから。早い者勝ち、あとは惰性で続いていきます。
えらてん:でも本当は実体はないから、みんながそれに気付けば終わってしまう。いつ崩れてもおかしくないと。
中田:そうです。
えらてん:じゃあ、ドルが基軸通貨でなくなるとその次にくる通貨はなんでしょう?
中田:基本的には金なんだけどね。詳しく言うと、金だけでなく、レアメタルや石油や天然ガスや穀物などの天然資源の裏付けのある通貨の構想なんかもあるんですが、ややこしいので。それはまたの機会に[3]。今は金のことだけを考えましょう。
だから今、金の値段上がっていますよね。みんな金の値段知らないでしょうけど。
えらてん:今(2022年10月27日現在)8500円とか。
中田:そう、だいたいそれぐらいです。実際トルコなんかだと普通に両替屋が町中にあって、両替屋で各国通貨と並んで金が一緒に取引されているんですよ。でも日本では街で両替屋をみかけることは滅多にないですね。
えらてん:ないですね。
中田:そもそも両替屋っていう言葉自体が今ないよね。トルコに観光に行った人だとみんな知ってると思うけど街中に両替屋がいっぱいいるんだよね。日本だと両替は銀行しかないですよね。銀行ですらドルが切れましたってこととか普通にあるんですよ。リラくださいって言ってもどこもくれないでしょ? トルコでは銀行の他に両替屋がいくらでもあるんですよ。その中に日本円とかユーロと一緒に金自体も売っている。金って文字通り通貨なんです。トルコはインフレがひどくて、紙幣を信用していないから、みんな金自体を買って持っているんです。トルコも金貨を発行しているしね。なので、私は金貨、もちろん金自体を持ち歩くのは大変なんで金の裏付けがある兌換紙幣っていうのもありなんだけど、そういうものに戻っていく、というのが私の予想ですね。今ビットコインも下がっていますよね。あれも一時的なものなんで、あれなんてただのバーチャルな世界の数字でしかないからね。
えらてん:金こそが勝つ。
中田:これが本当のお金(かね)。世界征服は金(きん)から始まる。まず金(きん)を使おう。
えらてん:金はなんで価値があるんでしょう?
注)
[2] いわゆる「二次制裁」とは2012年の国防授権法に基づき、米財務省の外国資産管理局(OFAC)に非米国人や非米国企業に対して米国市場から排除する権限を与えるもの。例えば日本企業が米国のイランの制裁指定された企業と取引した場合、OFACは当該非米国企業の営業を停止させ、ブラックリストに載せることができる。非米国人や非米国企業にとって、この二次制裁は極めて大きな影響を持つ。イランとの取引が問題視されれば米国市場から閉め出されることになるということは、非米国企業にとってイランか米国かを選ぶこととなる。市場規模からいっても米国市場抜きに国際ビジネスを行うことはできないことから、非米国企業は必然的にイランとの取引を手控え、二次制裁の対象とならないよう慎重に対応することとなる。もちろん米国市場に依存しない中小企業なども存在するため、イランはそうした企業との取引を期待するが、それも容易ではない。というのも、米国の単独制裁のもう一つの武器は国際取引通貨であるドルを握っていることである。イランの個人や団体が何らかの対外的経済活動を行う際、多くの国際取引はドルを使って行われる。それが非米国企業との取引であったとしても、ドルを使う限り、米国の銀行を経由して取引がなされるため(コルレス取引)、米国の管轄圏内を経由する。米国当局はこうした米国内を通過する資金の流れを監視し、国内法を用いてイランと非米国企業の取引を止めることもできるからである。米ドルが国際決済通貨であり、多くの非米国銀行が米国内で営業している以上、二次制裁があるために米国の単独制裁の効果は非常に大きいものとなる。鈴木一人「国連イラン制裁の実効性」『国際安全保障』第48巻2号(2020年9月)74-5頁参照。
[3] 最新の動きについては、苫米地英人「金本位制か蘇るシン・グレートリセットが進行中」2022年4月4日(https://youtu.be/jyb0ZSE_OmQ @YouTube)参照。