「インボイス制度」導入で、アニメ・演劇・漫画業界で廃業者が続出する【篁五郎】
◆エンタメ業界がインボイス導入を強く非難する理由
11月16日に、エンタメ4団体(VOICTION・アニメ業界の未来を考える会・インボイス制度を考える演劇人の会・インボイス制度について考えるフリー編集(者)と漫画家の会)が都内で記者会見を行い、当サイトも参加をした。
会見の理由は、来年(2023年)10月から施行される予定の新しい税制度の「インボイス」に反対を表明するためである。会見では、声優・アニメ・演劇・漫画4団体が、インボイス制度と収入に関する実態調査結果を発表。導入されると業界に与える影響やインボイスに反対する理由を当事者として表明した。
「インボイス制度」(正式名称:適格請求書等保存方式)は、取引の正確な消費税額と消費税率の把握を目的として導入される。財務省曰く、「OECD加盟国では当たり前に導入されている」制度だという。制度がスタートすると、発注者・受注者に、消費税率などを明記した「インボイス」(適格請求書)と呼ばれる請求書の発行・保存が義務付けられる。インボイスは、事前に登録した適格請求書発行事業者(インボイス事業者)しか作成できない。
現在は、課税売上高が1000万円以下の法人や個人事業主は消費税は免税となっているが、導入されたらフリーランスに仕事を発注する企業などは、免税事業者に支払った消費税分を控除できなくなるためインボイス未登録の取り引きを控えるだろうと予測されている。そうなると事業所得が低い業者はインボイスに登録して売り上げから消費税を支払うか、取引先が減るのを覚悟でインボイス未登録のまま仕事を続けるしかなくなると言われている。
会見では事前にエンタメ業界の当事者に行ったアンケート結果が記者に配られ、それを元に代表者が反対の理由を訴えた。「インボイス制度を考える演劇人の会」代表世話人の丸尾聡さんは、俳優や演出家・プロデューサー、舞台監督、音響照明などの技術職まで約72%の人が影響を受けるというアンケート結果を公表。導入されたら3割の人が廃業をすると答えたという。演劇業界はコロナ禍で打撃を受けており、現在も公演中止に怯えながら何とか凌いでいる状態だ。
「インボイスが覆いかぶさってきたら人が辞めてしまう。日本の文化・芸術の未来は先細ってしまう」。丸尾さんは「2割も止めたら、この国の文化はどうなるんですか?」と問いかけ、舞台装置などの技術が失われていくことを危惧し、中止を訴えた。
「インボイス制度について考えるフリー編集(者)と漫画家の会」代表で漫画家の由高(ゆたか)れおんさんは、インボイスが始まったら2割の関係者が廃業をするとアンケートで答えていると述べた。
漫画界は業界最高の売り上げを記録しており、外から見ると景気が良さそうに見えるが内情は厳しい。漫画家は原稿料と単行本の印税が主な収入だが、原稿料は出版業界の不況が長引いているため数十年アップしていないそうだ。売れっ子漫画家は多くのアシスタントを雇っているが、半数以上の年収が300万円未満だという。年収が200万円以下もざらにおり、複数の現場やアルバイトをして凌いでいるのが現状だ。
そんな中でインボイスが導入されると作家が仕入税額控除を諦めるか、アシスタントが課税事業者になるのかが迫られる。これまで築き上げた関係が崩れるような決断をするのだ。
「漫画家側はアシスタントに課税を迫れない、負担をかけたくない。また、アシスタント側も先生に免税を迫れない、だからといって課税分を追うのも厳しい。作家側からはアシスタントを心配するコメントも散見されました。アシスタントは一人の作品を長期間手伝い、全力を尽くしてサポートしています。作家側も自分の原稿がどんなに大変になろうと、大半はアシスタントのデビューが決まれば喜んで送り出します。そのことだけでも分かってください!」
由高さんは涙ながらに訴えた。制度がスタートすると収入の減少だけではなく、アシスタントの担い手が減り、作品数も減ってしまって衰退の原因になりかねないという。
アニメ業界のインボイス導入の影響は深刻だという。「ガンダム」シリーズで知られるサンライズ、アニプレックスを経て現在はアニメプロデューサーとして活躍するスカイフォールの代表取締役で「アニメ業界の未来を考える会」代表の植田益朗さんは、怒りを露わにした。
「43年アニメ業界に携わってきましたが、今回のインボイス制度ほど危機感を感じたことはございません」と怒りをにじませる。「制度をこのまま導入することは業界にとって何のメリットもない」
インボイス導入を強く非難。ブラック産業と言われるアニメーターの待遇改善をしてきたのをぶっ壊してしまうと断言した。
また、アニメ「キルラキル」「プロメア」などのヒット作を生み出したアニメ制作会社トリガーの大塚雅彦代表取締役も「決してフリーランスだけの問題ではない」と訴え、改めて反対を表明した。
そして咲野俊介さん、岡本麻弥さん、甲斐田裕子さんが立ち上げた声優有志が立ち上げた「VOICTION」も悲痛な声を上げた。
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