「これ明日までにやっといて!」と仕事を無茶振りされる私ですが、常識的なクライアントと付き合うにはどうすればいいの?【角田陽一郎×加藤昌治】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「これ明日までにやっといて!」と仕事を無茶振りされる私ですが、常識的なクライアントと付き合うにはどうすればいいの?【角田陽一郎×加藤昌治】

あんちょこ通信 第11回


皆さまこんにちは。「あんちょこ通信」編集長のカイノショウです。

あんちょこ通信では、ビジネスパーソンのお悩みを解決する『仕事人生あんちょこ辞典』著者の角田陽一郎、加藤昌治が、みなさまから届いた「仕事人生のお悩み」にパシパシ答えていきます。

お悩み相談は、定期的にYouTubeでも「お悩みあんちょこライブ相談会」として配信しています。そちらもぜひご覧ください!

さっそくお悩みを紹介しましょう。


 

  

チョコ大好きさん(青森県、30代、フリーランス)

「フリーランスで、テープ起こしを中心にいろいろな会社さんからお仕事を頂いています。大口のクライアントから「これ明日までにやっといて!」みたいな徹夜前提の案件を振られることが多いので、できればお付き合いを断ちたいです。常識的な依頼をしてくれるクライアントと仕事できるようになるにはどうしたらいいでしょうか?」

 

 フリーランスの方だけでなく、私自身もそうですが、昨今はサラリーマンをやりながら別に仕事を持っている人も増えていますから、多くの人にとって切実な問題ですね。

 仕事を頼む立場、頼まれる立場のどちらも経験されてきたお二人の視点から、この問題をどう考えますか?

 

 ■クライアントと交渉できる? できない?

 

角田:確かにテープ起こしって「明日までにやっといて」みたいな依頼が多いんでしょうね。そういう依頼でも、断ったら仕事がこなくなってしまう。断れるぐらいの立場になれば話は早いけれど、簡単にそうはなれないということでしょう? 

加藤:もちろん徹夜仕事はないほうがいいわけですけど、特急料金みたいなのはないのかな。 

角田:ああ、なるほど。発注を受ける側ってなかなかそれを言い出しづらいけど、言える社会になったほうがいいよね。

加藤:云いにくかったら、「こうなってます」っていうメニューを用意してご提示することは、物理的にはできるじゃないですか。その上で頼んでくるんだったら、「じゃあ、これを分かってて、お頼みなんですよね?」と云えるわけだよね。

 テープ起こし的な仕事って、リピーターであるお客さまが多いと思うんですよ。だから仕事と仕事の間でそれを提示してもいいし、もちろん、はじめましてのときに提示してもいい。それを先に云えるだけでもだいぶ変わる。

 実際のところ、頼んでいるほうも「本当は明後日でもいい」みたいなことはあるからさ?

角田:サバを読んで、裏には「本当の締め切り」があったりするからね。「締め切り」「本当の締め切り」「ほ・ん・と・う・の締め切り」みたいに、重みの違う「ほんとう」があったりするもんね。

加藤:だから、仕事が始まるときにお互いにそれぞれ余地があるとすると、「お値段設定」はそれをすり合わせる取っ掛かりになるんだよ。特にテープ起こしのような作業は「1分〇円」のような定価が付けやすいはずだから、特急料金という発想はあっていいんじゃないだろうか。

角田:テープ起こしからちょっと離れて、これはあるプロデューサーの方から「一緒に仕事をやろう」みたいな話が来たときの話なんだけど、僕らの業界的な問題で「受注されたら金が出る」類の案件ってあるじゃないですか。言い換えると、プレゼンだけして受注されなければお金をもらえない。確かにプロデューサーにお金が入らないわけだから、こちら側が企画を作ってもお金をもらえないで、そういう案件はよくあるんですよ。

加藤:企画系の業務ではある話だね。

角田:大変な思いをして企画を作ったのに「企画が通らないとゼロ」みたいなことは、これまでにも結構体験してるんだ。

 それが嫌だから、今回の件に関しては、「実作業分だけは頂きますよ」って最初に言ったんです。

 そうすると、現時点ではコンペを通ったかわからないけど、実作業分の金額はもらえたんだ。だから加藤くんが言ったように「事前に言う勇気を持つ」ということが大事なのかな。

 

■誰と仕事をしたいか、意思表明し続けてみる

 

加藤:どの時点で料金が発生するかは、発注する側の商習慣に大きく影響されるんだろうね。いわゆるスモールビジネス同士だと「時間辺りいくら」的な話が分かりやすいと思うし、ビジネスの規模が大きくなってくると納品ベースになる傾向がある。

 それは「どちらの商習慣でやりますか」という話だと思うので、受ける側が小さくても、受ける側の矜持として主張してもいいんじゃないかな。

角田:そうだけど、受ける側のほうが基本的に弱者だから、強く言えないところはあるよね。僕ですら、そういうことを言うと「じゃあもう角田には頼まないよ」って言われちゃうんじゃないかって思うもの。

加藤:仕事人生あんちょこ辞典』でも何回か名前が出てくる「ワクワク系マーケティング実践会」の人たちには、そんなに大きくない小売店のようなスモールビジネスが多いんですよ。彼らはいま、「お客さま側も、お店側も、どちらも「選ぶ権利」がある」ことをすごく意識している。「やっぱり最初は怖かったけれど、やったらできる」ってことを皆さんおっしゃいますね。

角田:つまり、処方箋としては「言ってみろ」ってことか。意外に崩壊しないから。

加藤:どういう人たちとお仕事したいか、意思表明を継続的にしていると、そういう人たちが集まってくる。

 彼らはそれを、音楽のアーティストに喩えて語ることが多い。アーティストにはそれぞれにファンがいるわけだけど、もちろん一定水準の実力を超えないとファンはつかない。そういう意味でもベースとしての実力は必要で、テープ起こしで云えば、ある程度のスピードや正確さは必要だろうね。

角田:アーティストでいうところの「ファン」は、ビジネスでは「顧客人数」ということだね。

加藤:お客さまの母集団が何人いれば食えるのか。逆に云うと、テープ起こしのような仕事の場合はどんなに発注が来たとしても、自分の身体でやることだから物理的な限界がある。顧客の母集団がどれぐらいいて、どれくらいの頻度で発注してくれるのか、そこの計算がたつはず。

 そういう発想に立てば、明日すぐには難しいけれど、自分を指名して依頼したいお客さまを作っていくことは可能だし、そういうお客さまを作っていけば値下げしなくていい、ということを「ワクワク系マーケティング実践会」の人たちが云ってるんだよね。

 虎ノ門にあるお店なんかだと、営業時間がどんどん短くなっているんです。売上を上げようとおもったら普通は逆でしょう?

 だけど、営業時間を短くしたというのはサボってるわけじゃなくて、店を開けてない時間には自分を高める努力、お客さまを喜ばせるための大変な努力をしているので、その意味では働いている。

 なんにせよ、営業時間を短くしても、売上や利益を変えず、むしろ上げることはできるみたいなんだ。その人たちの業種・業態もバラバラで、面白いのは墓石屋さん。普通墓石なんてリピーターつかないでしょう。

角田:一回作ったらおしまいだよね。

加藤:でもそのやり方で成り立っているんだよ。ということは、扱っている商材に関わらず再現性のあるやり方なんだろうと、彼らの活躍を見ていて思うんだ。

 それはテープ起こしのようなお仕事でも同じ構造だろうから、そういうやり方とかを研究して、かつ実践してみるのはいいんじゃないかな。

角田:今、テレビの制作費は以前と比べて確実に下がっているんだけど、同じように自分の仕事の単価が下がっていると思っている人は、結構多いと思う。でも自分が払う立場になると「サブスクが1000円になって高いな」みたいに、常に安いものを探すよね。それって矛盾してないかなといつも僕は思っているんだけど、今加藤君が言ったような人たちは、そこから脱却できていると。

加藤:お客さまは「欲しいモノ」……もしかしたら「欲しいコト」なのかもしれない……に対しては、他の何かを諦めてでも買いに来るんだね。

角田:だとすると、「単価が下がっていく」みたいな風潮とは違うところで自分の生き方・仕事の仕方をデザインしていく必要があるのかな。

加藤:そう。だからさっきは「交渉する」ってことを話したけど、むしろ交渉しない。お客さまを変えていく。最初は苦しいかもしれないけどね。

角田:ああ、お客さんを変えていくのか。

加藤:事業の規模が大きくなってくるとそうも云えない事情が出てくると思うけど、この質問者の方は個人事業主だろうから、むしろそういう自由がある。そんな考え方、スタンス、アティテュードが持てるといいよね。

角田:短期的には「自分の日銭をどう増やすか」みたいなことを考えてしまうけど、もっとロングスパンで、「自分の立ち位置をどう表明するか」個々人が考える。13000万人全員がそれをやれば日本経済は浮上するんだと思うな。一方で自社にも他社にもコストカットを求めるようなことを大半の人がやっているから浮上しないんじゃないかな。

 

次のページ「後工程の人が楽しくなる」ように、仕事にアートを。

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角田 陽一郎/加藤 昌治

かくた よういちろう かとう まさはる

角田 陽一郎(かくた・よういちろう)

バラエティプロデューサー/文化資源学研究者 

千葉県出身。千葉県立千葉髙等学校、東京大学文学部西洋史学科卒業後、1994年にTBSテレビに入社。「さんまのスーパーからくりTV」「中居正広の金曜日のスマたちへ」「EXILE魂」「オトナの!」など主にバラエティ番組の企画制作をしながら、2009年ネット動画配信会社を設立(取締役 ~2013年)。2016年TBSを退社。映画『げんげ』監督、音楽フェスティバル開催、アプリ制作、舞台演出、「ACC CMフェスティバル」インタラクティブ部門審査員(2014、15年)、SBP高校生交流フェア審査員(2017年~)、その他多種多様なメディアビジネスをプロデュース。現在、東京大学大学院にて文化資源学を研究中。著書に『読書をプロデュース』『最速で身につく世界史』『最速で身につく日本史』『なぜ僕らはこんなにも働くのだろうか』『人生が変わるすごい地理』『運の技術』『出世のススメ』、小説『AP』他多数。週刊プレイボーイにて映画対談連載中、メルマガDIVERSE配信中。好きな音楽は、ムーンライダーズ、岡村靖幸、ガガガSP。好きな作家は、ホルヘ・ルイス・ボルヘス、司馬遼太郎。好きな画家は、サルバドール・ダリ。

                                                             

加藤 昌治(かとう・まさはる)

作家/広告会社勤務

大阪府出身。千葉県立千葉髙等学校卒。1994年大手広告会社入社。情報環境の改善を通じてクライアントのブランド価値を高めることをミッションとし、マーケティングとマネジメントの両面から課題解決を実現する情報戦略・企画の立案、実施を担当。著書に『考具』(CCCメディアハウス、2003年)、『発想法の使い方』(日経文庫、2015年)、『チームで考える「アイデア会議」考具応用編』(CCCメディアハウス、2017年)、『アイデアはどこからやってくるのか 考具基礎編』(CCCメディアハウス、2017年)、ナビゲーターを務めた『アイデア・バイブル』(ダイヤモンド社、2012年)がある。           

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