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日本人はなぜ「男色」に惹かれるのか?

現在観測 第27回

「美人」とはもともと美しい「男」を指す言葉でした。

「美しさ」

 それは、豊葦原瑞穂の国、この水蒸気の多い国では、はかなく優美であること、小さく、か弱く、清らかな存在であること。そのため、「美しさ」という重荷はまず少年に課されてきたのです。

 童子、稚児、若衆、小姓、陰間……

 日本の歴史のどの部分をすくい取っても、川砂に混じる砂金のごとく、妖しくきらめく少年たちがいます。朝廷、寺院、城、歌舞伎や猿楽の舞台、時には戦場にすら、彼らはいました。莫大な人命や資本が投下される場所、国家や民族の運命を競って、時代精神ともいうべきものがぶつかり合い火花を散らしている場所、そんな鉄火場のかたわらに、静かにたたずんでいたのです。

 ヤマトタケルノミコト、桃太郎、金太郎、牛若丸、一寸法師。

 物語のなかの英雄たちも多くが少年です。彼らは実際的な能力よりも、あくまで心優しく、繊細であることが強調されました。少女に見まがうような肢体であくまで中性的、男の前の男、女の前の女でなくてはならなかったのです

 こうした物語のモデルとなった人物が、現実にどういった人であったかはさて置いて、美しさや英雄性を少年に課すことは、決して日本に特有の現象ではありません。

 古代ギリシャ神話、紀元前12世紀ごろに起きた出来事とされるイーリアス最大の英雄、アキレウスはマッチョなイメージがありますが、実は絶世の美少年でした。出征すれば必ず死ぬという神託を恐れた母親が女装させたところ、美女揃いの侍女に取り紛れて、狡猾なオデュッセウスでも見分けがつかなくなったというエピソードがあります。

 酒杯(キュリクス)などに描かれる彼も、スラリとした若者で、親友のパトロクロスがひげもじゃのむくつけき男に描かれるのとは対照的です。小さくか弱く、そして性愛の対象にたる美しい少年が、もの凄い力を持っているというイメージは、洋の東西を問わず、人類に普遍的なものでした。

 これは中国も同じで、山西省、浙江省などあちこちに、青衣童子と呼ばれる、凛とした雰囲気の美少年を祀った寺社があったという記録が残っています。

 しかし、英雄性と美を兼ね備えた少年のイメージは時代が下るにつれ薄れていき、力はマッチョな男に、美しさは女性へと流出していきました。

 

 

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黒澤 はゆま

くろさわ はゆま

1979年、宮崎生まれ。大阪在住。システムエンジニアの仕事のかたわら、小説教室「玄月の窟」で修業。エージェントに才能を見出され、2013年に歴史小説家としてデビュー。



著作に『劉邦の宦官』(双葉社)、『九度山秘録: 信玄、昌幸、そして稚児』(河出書房新社)。現在、webマガジンcakesで男色がテーマの「なぜ闘う男は少年が好きなのか?」、ウートピにて女性をテーマにした歴史コラムを連載中。



愛するものはお酒と路地の猫。


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