【連載】適菜収 死ぬ前に後悔しない読書術
〈第17回〉新聞をやめよう
哲学者・適菜収が「人生を確実に変える読書術」の極意を語る!
「読書で知的武装」するなんて実にくだらない!
「情報を仕入れるための読書」から、いい加減、卒業しよう!
ゲーテ、ニーチェ、アレント、小林秀雄、三島由紀夫……
偉人たちはどんな「本の読み方」をしていたのだろうか?
正しい「思考法」「価値判断」を身に付ける読書術とは?
哲学者・適菜収が初めて語る「大人の読書」のススメ。
第17回
新聞をやめよう
高校生くらいからルポルタージュやジャーナリズム論をたくさん読むようになりました。朝日新聞の論調に毒されていたので、左翼的なものが多かったのですが、それでも新聞はよくないなと思うようになった。それで生まれてから一度も新聞はとったことがありません。
まあ、厳密にいうと、二回とりましたが。
一回目はY新聞です。大学生の頃、Y新聞の拡張員が来て「どうしてもとってくれ」としつこかった。それで「無料だったらとる」と言ったら、「とってくれるんですか!」と食いついてきた。拡販のノルマの事情を知っていたので、「その代わりに条件がある」と畳み掛けた。結局、洗剤五箱と巨人戦のチケット二枚をもらい、三ヶ月無料で購読してやめました。野球は嫌いなので、チケットは友人にあげた。
二回目はS新聞です。
大学卒業後に、高田馬場駅前で勉強会があり、そこにS新聞の社員が来ていて、「五〇〇〇円あげるからうちの新聞をとってくれ」と言う。
それで、五〇〇〇円をもらって一ヶ月だけとってやめました。
トクヴィルは、新聞が世論を煽る危険性を指摘した上で、それでも「社会の紐帯(ちゅうたい)を維持する装置」として重要視しました。
しかし、日本の新聞と海外の新聞を一概に比較することはできない。日本の新聞は毎朝宅配されますが、欧米の新聞は基本的に駅や街角の売店で手に入れるものです。
だから新聞ごとに主張もはっきりしている。記事も専門家が書くことが多く、投書欄には著名人や大学教授などのきちんとした意見が並ぶ。日本の新聞の目的は愚民をつくることとまでは言うつもりはありませんが、読まないに越したことはない。
新聞をやめるのは簡単です。電話をして「やめます」と言えばいいだけですから。
理想をいえばインターネットもいりません。ネットサーフィンは時間のムダです。
私もネットをやめたいのですが、仕事上そうもいかない。それでフェイスブックを見たりして、時間をムダにしてしまう。今は、電車の中でもスマートフォンなどで、ネットにつながっている人が多い。あれは中毒です。
とりかえしがつかなくなりそうな人は、初級編でまずテレビと新聞をやめて、上級編でネットと携帯電話をやめればいい。鞄の中には文庫本を二、三冊入れておけばいいのです。
〈第18回「ベストセラーは時間を置いてから読む」につづく〉
著者略歴
適菜 収(てきな・おさむ)
1975年山梨県生まれ。作家。哲学者。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、『日本を救うC層の研究』(講談社)、『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志・中野信子との共著『脳・戦争・ナショナリズム 近代的人間観の超克』(文春新書)など著書多数。