最悪! 就活中の放火魔が金を借りにきた!(前編)【たらい回し人生相談】
【たらい回し人生相談】〜ヤバいやつがもっとヤバいやつに訊く〜 連載第5回
むき出しの社会問題をミディアムレアでお出しする当連載、早くも評価と当惑の声が多数寄せられている。三人目となる今回も「素材」のスピード感は困ったことに落ちる様子がない。
社会問題が服を着て歩いているような存在、大司教、それが当企画の相談役である。彼の周囲には現代社会のあらゆる歪みが勝手に寄ってくる。そんな彼のもとに今回現れたのは好青年の放火魔、Nくん。相談の要件は簡潔にいうと「金を貸してくれ、あと就職先も紹介してほしい」である。実に具体的なビジョンだ。最悪だ。
以前の相談者(前連載参照)たちが自分が何をしたいかもはっきり示せない状態だったのとは対照的である。人はしばしば自分の望みをはっきり言葉にできないものだが、そこへいくと今回相談者の「目先の金がほしい、あわよくば先々の金もほしい」という目標はまさに旗幟鮮明である。
「相談のついでにベストタイムズで雇ってくれませんかね?」
ひょうひょうとそんなことを口にするNくん。
Nくんは金を借りられるのか?
ベストタイムズは放火魔を雇うのか?
■登場人物:
Nくん:大卒の放火魔、現在就職活動中とのこと。
先に別のおつとめに行くべきなんじゃないだろうか。というのはさておき、一見すると真面目そうな好青年である。とてもではないが放火癖があるようには見えないし、貧困の中で万引きした肉で栄養を補給して育ったようには見えない。
こういうモンスターがあなたの隣人かもしれない。そう思って当記事を読んでいただいて、読者各位は防犯につとめていただくことを願っている。
大司教:無職の放火魔ではない人。就職活動はしていない。
一見するとまともそうな中年男性である。恰幅もいいのでジャケットなんか着るとけっこう立派だし、スーツなんか着るといかにも信頼できそうにも見える。
以下はNくんや大司教とは関係のない余談になるのだが、筆者の経験上「外見上まともそうに見える」というような印象は異常者を見抜くうえでまったく役には立たない。人間には正常性バイアスというものがあり、ささいな違和感や垣間見える不穏さを感じても、無意識に無視してしまうものなのだ。ある程度以上の能力のある異常者はみなこれを心得ているので、一般人の印象というフィルターは容易にすり抜ける。
S氏:大司教の旧友で、一時期はNくんのタコ部屋仲間でもあった。取材の当日、何がなんだかわからないまま大司教の車で連れてこられた。理由は本編参照。
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人生相談当日、上記の人物に加えて筆者と編集氏がベストタイムズ会議室に集まった。S氏は「ちょっと来れる?」という感じで自宅から拾われて連れてこられたので、自分がなぜここにいるのかもよくわかっていない。主役のNくんは遅れるという。待ち合わせ場所に選んだ会場近くのロイヤルホストをジョナサンと混同したのだ。当連載も五回目になるが、今のところすんなりと主役が会場に登場したことがない。
Nくんが来るまでの間、ホワイトボードに本日の話題を書いて記事の段取りを考える。「借金」「放火」「就職活動」と箇条書きにしていると、Nくん登場。
「いや〜おくれてすみませえん」
人物紹介でも書いたが、Nくんは一見すると真面目そうな好青年に見える。いわゆる不良っぽい雰囲気は感じさせない。少し話してみても、ちょっと調子がいいところはあるが当たりは柔らかく、折りに触れてちょっとした気づかいや生真面目さも見せる。お年寄りに好かれそうなタイプだ。とても倫理観が異様に欠如しているようには見えない。
■放火はもうおやめになったの?:
Nくん:どうも〜。お久しぶりですう〜。
大司教:ああはい。
Nくん:お金貸してくれるんですよね。あと就職も何とかして欲しいです〜。
大司教:今回は記事にするということで……(当記事の趣旨を説明)というわけなんですけど、ところでNくんは最近も放火してるんですか?
Nくん:してないですよ〜。
編集:あ、放火は最近してないと。
Nくん:一番最近のは失敗しましたから。
大司教:ノーカンなのね。
編集:……犯罪だって認識はあるんですか?
Nくん:今は一応ありまーす。
大司教:今は一応とは。
Nくん:地元に居たころは、もう悪いことだと全然思ってなかったです。友達と廃墟に行って、燃えそうなものとか燃やして遊びっていうのは、僕らは「たき火」って呼んでたんで。悪いこととかだって発想がなくてー。
大司教:廃墟に入るのも不法侵入ですけどね。
Nくん:悪い事だってぜんぜん思ってなかったんですよねー。大司教とか周りの人に「それは放火で犯罪だよ」って言われてはじめて「ヤバいのかな」って思って、それで地元の友達とかに「廃墟に入って火とかつけるの犯罪らしいよ」って言ったらみんなびっくりしてましたー。
大司教:だいたい山奥でやるんだ。
Nくん:そうですね。子供がいたりしたら危ないじゃないですか。地域の人に迷惑かけたいわけじゃないんで(キリッ)
大司教:存在自体が迷惑ですよ。
■なぜ放火するの?:
大司教:そもそもなんでものに火をつけるんですか?
Nくん:ぼくは昔からいろんなものを燃やすのが好きだったんですよ。ドラッグやったり落書きしたりしてもむなしくて。もっと永遠がほしいなと。
大司教:永遠ねえ……。
Nくん:昔地元の○○の○○○○○○○(注1)を燃やしたのが思い出で……。(うきうきした様子で)
編集:そ、そういう夢を見たわけですね。
大司教:夢を?
編集:ヤバいんでせめてそういうテイにしましょう。
筆者:なんのフォローにもならないですけどね。(注2)
Nくん:えっ。ああはい。そうですね。じゃあそれで。話を戻すと、ないもののほうが美しいじゃないですか。ブランコに火をつけたことがあったんですけど、ブランコがそこにあるってことよりあったって事のほうが美しい。心に写真をとるために燃やすっていうか……。
大司教:じゃあそんな感じで。それで最近の失敗したやつってのは?
Nくん:それで最近引っ越した先に廃墟の遊園地を見つけたんですよ。そこに忍び込んで遊んだんです。プールの水は抜かれてて泳げなかったんですけど。そんな感じで遊んでたら。
編集:遊んでる夢を見たら。
Nくん:A○○○○(警備会社)のアラームが鳴ったんですよ。A○○○○って来るのが早いんです!(注3) だから火はつけられなかったので放火はしてないですー。
大司教:○○の遊園地(注4)はガードが固いと。
Nくん:そうですねえ!(注5)
大司教:そういえば、私に初めてあったころも、あるときムカついた顔で出て行ったと思ったら、大学の設備に火をつけたってあとで言ってきたことがあったよね。
Nくん:納屋ですね。夢の中で。
大司教:大学は対応しなかったの?
Nくん:なんか貼り紙がされましたね。
大司教:貼り紙で済むんだ。
Nくん:あの時は大司教たちとの生活でストレスがたまってたんですよ。
大司教:我々の家は燃やさなかったですね。
Nくん:ぼくは人に迷惑をかけたいわけじゃないんで。
大司教:何かが根本的におかしいと思わないんですか?
Nくんの人間性がいくらか伝わったら幸いである。筆者は記事の作成にあたり「問題にならないよう丸めて書くように」という作業指示を受けているが、どうしろと言うのだろうか? 日本は小学校とかで犯罪についてちゃんと教えるべきじゃないだろうか? 警察は何をしているのか? 市中にもっと防犯カメラを設置しまくるべきではないだろうか?
なぜこんな人間が生まれてしまったのか、続いてNくんの経歴に迫る。
注1:場所は秘す 注2:原稿書く方の身にもなってほしいんだよな。 注3:警備会社によって来る速さが違うとのこと。 注4:場所は秘す。 注5:最近の警備会社は夢の中にも来るらしい。
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