最悪! 就活中の放火魔が金を借りにきた!(前編)【たらい回し人生相談】
【たらい回し人生相談】〜ヤバいやつがもっとヤバいやつに訊く〜 連載第5回
■リアルチェンソーマン(自称)の生い立ち:
大司教:えー、じゃあ。記事にするために生い立ちというか……君のような教育の失敗、社会の失敗とでも言うべき人間がどうして生まれたのかということを話してくれますか?
Nくん:ひどいことを言うなあ。それよりお金は貸してくれるんですか?
大司教:君は失敗そのものでしょう。私はあなたにお金を貸すのはイヤですから、代わりにSさんを連れてきました。あとで彼に借金を申し込んでください。
Nくん:あっはーい
S氏:えー……。
大司教:あ、きょうSさんを連れてきたのはそういう理由です。
S氏:そうなんだ。まあいいけどさ。
Nくん:わーい。Sさんよろしくおねがいしまーす。
大司教:それはあとであらためてということで、とりあえずインタビューを。まず子供のころというか、これまでの来歴みたいなものを話してくれますか。
Nくん:僕はインテリの母に虐待されて、食事とかもろくに与えられずに育ったんですけど。お前なんか生まれなきゃよかったみたいな感じですねー。母親は狂人として地元でも有名で、最近聞いた話だと、真冬にホットパンツ姿で近所の小学生を怒鳴りつけてたって目撃情報がラインで来ました。うふふ。
大司教:ハハハ、でも旧帝大の物理を出たエリートなんだよね?
Nくん:はい。それで。幼少期は団地の一室で集まって、万引きとかしながら過ごしました。食べ物がないから自分で盗むんです。えーっと。そのころの思い出っていうか小話なんですけど。牛肉を万引きしたんですよね。牛肉のパックをこうリュックにぱんぱんに。
編集:万引きってレベルじゃないですよね。
Nくん:まあいいじゃないですか。それで、黒毛和牛のステーキ肉だったんですけど、それを黒焦げになるぐらいにして食ってたんです。焼き加減とか料理のやり方とかわからないからぶつ切りにしてカリカリになるまで焼いて。それをうめえうめえって食ってたんですけど、東京に来て大司教と会ってから、Sさんが安い鶏肉で美味しい中華粥を作って食べさせてくれたときがあって、あれはマジで文化の差を感じましたねえ。圧倒的カルチャーショックで。
大司教:文化の差?
Nくん:だって、自分たちは高い肉を手に入れてもカリカリで食ってたのに、安い鶏肉で美味しい料理ができてすごいなあって。
S氏:まあ先人の知恵というのはありますからね。
大司教:和牛を炭にして食ってた少年が、年収50万円の人に料理を教わって(注6)感動したって話ですか。これが貧困なんだよな。
Nくん:やっぱり(大司教とか)頭おかしい先輩たちに会っていろいろ学べたんでよかったです。お箸の持ち方とかゴミの分別とか、全部大人になってから学んだんですよ。前はずっと家では全裸でしたけど服を着るようになったし。
大司教:まあ初めて会った時よりは落ち着いたよね。
Nくん:高校時代に、不良外国人のたまり場になってるようなバーに入り浸ってたんですけど、あるときその外国人から「お前は倫理観がなさすぎる」って説教されて。
編集:なんでそんなバーに?
Nくん:ちゃんとしたチェーン店は僕らみたいなの(高校生)を飲ませてくれないんで。
大司教:まあいいや。それで?
Nくん:それで勉強してこいって言われて上京したんですよね。
編集:そういう素直さはあるんですね。
Nくん:まあ尊敬してる先輩とかもいたので。
編集:学費はどうしたんですか?
Nくん:いろいろ土下座とかして何とかしたんですよー。
大司教:もっと具体的に話して。
Nくん:所得の低い人は土下座すると学費が割引になるんですよ。あとは他人名義の会社を作って、若者ベンチャーってうたって公庫からお金を引っぱって、それで16万用意しました。
大司教:スムーズにうさんくさい話に移行していく……。
Nくん:それであと足りない分は父親に借りましたね。
大司教:この流れで学費を出してくれる父親が出てくると意外すぎるな。
Nくん:父親とは普段ぜんぜんやり取りがないんですよ。別の場所に住んでて。でも父親にかけあったら「息子を大学に行かせてやったって実績が欲しいから、それを言っていいなら金を出してやってもいい。利息も法定利息でいい」って。
大司教:金利とったんだ。てっきりいい話になると思ったが。
Nくん:利息とられましたねえ。
編集:ここまでが前半として、いったん休憩ということで。
休憩タイムとなった。おのおのが自分なりの休息をする。話し好きの大司教は本連載のテーマが貧困であると述べ、周囲を貧困層呼ばわり(事実ではある)しだす。S氏はいつも通りのマイペースでゆったりと過ごす。筆者は出された菓子をむさぼり食い、飲み物が余っていたのをいいことに三本目の缶コーヒーを開けていた。そんな中、主役のNくんはどうするか。なんと就活を開始した。
■休憩のどさくさでベストセラーズに就職を希望するNくん:
大司教:(休憩中の雑談)ようするにNくんは一言でいうと「更生に失敗した虞犯少年」なんですよね。まあ。全体を通して貧困層の話でしたね。貧困ってのはこの企画全体を通して横たわってるテーマなんですよ。わかってますか(周囲を指さしながら)おまえもおまえもおまえも、貧困層なんだよ。本物の貧困層って自覚がないんだよ。
Nくん:それはいいんですけど、ちょっと自分の話いいですか?
大司教:どうぞ。
Nくん:いま就職活動中なんですけど、100カ所ぐらい落ちちゃってて、まだ就職先が決まってないんですよ。ベストタイムズ編集部で雇ってくれませんか?
大司教:ワハハハ
編集:えっ、うーん……ええと。なんか。その。
大司教:出版社、紙がいっぱいあるわけだけど。
Nくん:身内には放火しないから大丈夫です。これは強調しておきますけど、別に僕は人に迷惑をかけたいわけじゃないんですよー。
Nくん以外の一同:…………。
Nくん:馬車馬のように働きますんでー。
編集:ええーっと、いま組織を縮小しているような状態で。まあ何かありましたら。
大司教:大人の断り方だ……。
Nくん:なんかこの連載で募集してくれませんか?
大司教:じゃあそれも企画でやりましょう(注7)
Nくん:あと、今回の本題というか、お金を借りたいからここにいるわけなので、ちゃんとお金も貸してほしいです。
大司教:じゃあ休憩終わったら借金の話をしましょう。
就活は玉砕したNくん。なので本連載ではNくんの就活支援としてNくんの就職先も募集したいと考えている。本来もっと別の「おつとめ」がある気がするが、まあ仕事が見つかったほうが社会から不安要素が多少減るので世の中のためにはなる気がする。(注8)
次回、Nくんの借金申し込みと、身の振り方について本格的な人生相談が始まる。
注6:S氏のこと。彼の最近の食事はおもに茹でたジャガイモとのこと。 注7:大司教はこの企画を完全な私物と認識している。 注8:そんなわけでNくんの就職先になりたい方をお待ちしてます。
(後編につづく)
✳︎連載「たらい回し人生相談」は毎週日曜日更新予定
- 1
- 2