最悪! 就活中の放火魔が金を借りにきた!(後編)【たらい回し人生相談】
【たらい回し人生相談】〜ヤバいやつがもっとヤバいやつに訊く〜 連載第6回
前記事(連載第5回)に引き続きNくんの実態をお届けする。現役の放火魔(本人いわく「たき火」)へのインタビューは犯罪学的にも貴重と思われる。
「たまに廃墟とか燃やすんですけど」
会話の流れで、ふっと彼はそんなことを口にした。別に悪事の告白をする風でもなく、天気の話でもするような口調で、とくに気負いのようなものは感じられなかった。まるで村上春樹の短編小説「納屋を焼く」だ。まあ犯罪なんですけどね。
彼は金を借りられるのか?
■お金貸してください:
大司教:先ほども言いましたが、私はあまり君にお金を貸したいと思わないので、代わりに頼むべき相手としてSさんを連れてきました。去年までSさんとNくんは一緒に年収50万のタコ部屋(注9)で寒い寒いと震えていた仲間なので。
S氏:まあ……そうですね。
Nくん:あらためてSさん、お金貸してくださーい。
S氏:あー、まあ……。
大司教:話に具体性がないな。とりあえずいくら借りたいの。
Nくん:15万貸してほしいです。
大司教:8万っていってなかったっけ。使い道というか、その金額の内訳は?
Nくん:あっはい。なんかマネーの虎みたいですね。
一同:ワハハ
Nくん:ええと……わたしが15万円貸していただきたい理由はですね。さいきん、引っ越しをしたんですけど、引っ越しで貯金の80万円が全部なくなってしまったんですよね。敷金とか交通費とか。あといろいろで。
大司教:家賃5万の物件にしてはずいぶんかかったね。なんか細部が不明瞭だが、まあいろいろということで。ちなみに今はいくらあるんですか?
Nくん:えっと。1万5000円ぐらいですかね。
大司教:うーん。お金がないのは分かるんですけど、これまで二年ぐらい君の様子を見てきたかぎりだと、今のN君ってこれまでではいちばん生活水準いいんですよね。タコ部屋時代とかに比べたらですけど。だからどうとでもなると思ってたし、これまではもっと金に困ってたと思うんだけど、なぜいま金を借りようと?
Nくん:カードの引き落としの金額にお金が足りないんですよ。
大司教:あいかわらず計画性がないなあ。
Nくん:カードの信用に傷がつくのがすごくイヤなんですよね。
S氏:ほかにもっと気にすることがある気が……。
大司教:まあ計画性がないのはいいんだけどさ。Nくん最近、就活が忙しくてバイトができないだの、日雇いは違うだの言ってるじゃん。でも連絡してみると六割ぐらいの確率で「いま新宿で飲んでます」って返ってくるよね。
一同:ウヒヒヒ
大司教:実際はどのぐらい遊び歩いてるの?
Nくん:言い訳していいですか? いちおう日雇い仕事はしてるし、毎日就活してるんですよ。遊んでないかっていうと……まあ。
一同:ワハハ
Nくん:宅飲みとかで節約してますよ。そんなに金のかかる遊びはしてません。あとは高級な服屋に行って試着だけして帰ってくるとか、そういうお金のかからない遊び方をしてるんです。
大司教:うーん、でも飲み会でNくんが財布の中にあるだけ払って帰るのを見るんですけどね。気前はいいんだろうね。それは江戸っ子だねって感じでいいんだけど、もうちょっとバイトとかしたら。
Nくん:日雇いとかで働いてますよ。
大司教:でもこないだ、ファミマの面接ブッチしたじゃん。
Nくん:まあそれはそうですけど。
大司教:まあ気持ちはわかるけど。
Nくん:(ベストセラーズ編集部に)雇ってくれって言って断られたから言うんですけど、僕ちょっと前に飲食店でバイトしてたんですよ。そこでバイトリーダーと殴り合ってクビになったんですよね。そんな感じなので。
大司教:それはなんで?
Nくん:僕はそのころ、人に「口臭いですね」っていうのがツボっていうか、面白いと思ってたので、バイトリーダーがしゃべるたびに「口臭〜い」って言ってたら、初めは笑ってたのがだんだん真顔になって。
大司教:何が面白いのかぜんぜん理解できない。
Nくん:(筆者に対して)面白いですよね?
筆者:まあ面白いっちゃ面白いけど、サイコパスの遊びって感じだね。
S氏:殴り合いになったとこまで含めて面白いけどさ。そこまでは面白くなかったよ。
Nくん:そうですか。
大司教:話を戻すけど、そんなめちゃくちゃなのにクレカの信用だけ気にするのが変だよね。私の知り合いは基本ブラックですよ、そんなの。
Nくん:信用に傷をつけたくないですから。
S氏:いちおう聞いておくけど……Nくんにとって信用ってなんなの?
一同:ワハハ
Nくん:うーん……。僕個人の信用ってのはいいんですけど、金借りにくくなるじゃないですか。あと、金貸しのところで働いてた時に滞納者のリストとか見て、あれに載るといいことがないわけで、載りたくないんですよ。
S氏:ああ。まあ。はい。まあいいけど。もう少し具体的に。
大司教:はじめ8万借りたいって聞いてたのが15万になってたけどそれは。
Nくん:こういうときは大目に言っておくものかなって。
大司教:本当に必要なのはいくらなんだよ。
Nくん:クレカの支払いに必要なのは8万で、あとは大目に借りとこうかなって。5万でもいいから貸してくれませんか。
S氏:5万じゃクレカの支払いに足りないでしょ。
Nくん:足りない分はなんとか自力で補填しますよ。万引きとか。トバシの携帯作って売るとか。
大司教:犯罪の前にやることあるでしょ。
S氏:そんなんだから会社落ちるんだよ。万引きとかで補填するのは信用を削る行為でしょ。……まあ貸しますよ。
こうして、Nくんにお金が手渡され、無事に借金が成立した。
Nくん:ありがとうございます!
筆者:……まあ。実は私もSさんに金を借りてるんですけどね。
Nくん:働けよ(笑)
筆者:いま働いてるんだよ。(注10)
注9:ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
注10:まだ返してないです。
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追伸:大司教が「参考資料」としてNくんの全裸写真を送付した件について、
重ねてお詫びさせていただきます。
今後このような事態が起きないよう一同、努めてまいりますので、
何卒ご寛恕のほどをお願い申し上げます。