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「私たちの声を聞いて」人気声優が切なる願い 「インボイス問題」公開ヒヤリング

写真:PIXTA

 

■インボイス制度の欠陥が露わになった瞬間

 2月3日に議員会館の会議室で「インボイス問題検討超党派議連」(末松義規(立憲民主党)会長)が公開ヒヤリングを行った。今回で第3回目となるが、権利団体・農家・個人情報問題の当事者を呼び財務省、国税庁、公正取引委員会の担当者に問題点を訴えた。

 最初に登場したのは俳優連合(約2,600名の俳優が加入し、TV局や制作会社との間で出演条件や安全対策等の団体協約の締結を俳優に代わって行っている団体)の専務理事。インボイス制度によって俳優や声優一人ひとりに登録事業者かどうかの確認をしろと税務署から言われてしまい、煩雑な事務作業が増えてしまったという。業務の一つである権利収入の支払いは、俳優・声優の権利だからきちんと対応したいが数が多すぎるため難しいとのこと。インボイス導入で業務量が大幅に増えてしまい、事務局は終わりが見えない作業で途方に暮れているそうだ。

 問題はそれだけではない。俳優・声優にとってはインボイス導入によってプライバシーの侵害が起きてしまった。インボイスは登録をすると個別に番号が発行される。課税業者になると、公表サイト(正式名称:インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト)に本名と住所が掲載されてしまうのだ。

 つまり公表サイトで、登録番号を入力すると個人情報が駄々洩れになる。本名がわかっても芸名を登録していなければ特定されないとお考えの方もいるが、その指摘は間違いである。実は声優は「本名だけでは誰だがわからないから屋号で芸名も登録して」とクライアントから言われているため、芸名も登録せざるを得ない。

 公表サイトのセキュリティがしっかりしていれば問題はないのだが、データとしてダウンロード可能となっている。落としたデータは、登録事業者全件の名前と住所が記載されているのだ。そのため俳優連合が抗議声明を出したり、各団体から指摘を受けたりして、ようやく公表サイトに入るIDを認可制にし、個人情報はダウンロードできない状態になった。ただしまだ問題は解決されていない。

 声優や俳優はストーカー行為に悩まされている人が多いため個人情報はできるだけ隠しておきたいので、個人情報漏洩を防いでほしいと訴えた。

 この訴えに対して国税庁は「主たる住所と屋号(俳優・声優の場合は芸名)は任意なので懸念がある場合は登録しなくてもいい」と他人事のように答えた。俳優連合の事務局が「反対に屋号と主たる住所を登録して本名と住所の登録をしないで済むことはできないか?」と食い下がるも国税庁の担当者は「法律上できない」と答えるのみで取り付く島もない。

 それでも「声優は(プライバシー保護のため)屋号に芸名を登録しません。クライアントから登録事業者かどうか確認したいと言われて、番号を教えても(本名を知らないから)判別できませんよ。それはインボイス制度自体が欠陥なのでは?」と追究されても国税庁は同じことを繰り返すだけ。

 このやり取りは制度の欠陥が明らかになった瞬間であろう。

 次に登壇した自動車会社の研究所にてプログラム作成等に従事していた技術者の話は、インボイスの大きな問題点を浮き彫りにした。先述したように現在はデータをダウンロードしても登録者全件の住所と名前がわからなくなっているのだが、登壇者は5分あれば全件わかるという。

 ダウンロードしたエクセルのデータに、少しプログラムを加えると全てのデータが表示された動画を見せて説明をした。つまり、今でも登録している事業者の名前と住所が全てわかっている状態のままなのだ。

次のページ個人情報は簡単に抜き取れるというセキュリティの甘さ

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篁五郎

たかむら ごろう

1973年神奈川県出身。小売業、販売業、サービス業と非正規で仕事を転々した後、フリーライターへ転身。西部邁の表現者塾ににて保守思想を学び、個人で勉強を続けている。現在、都内の医療法人と医療サイトをメインに芸能、スポーツ、プロレス、グルメ、マーケティングと雑多なジャンルで記事を執筆しつつ、鎌倉文学館館長・富岡幸一郎氏から文学者について話を聞く連載も手がけている。

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