なぜ、政府支出を増やすことが経済成長に繋がるのか〜成田悠輔氏の「情弱ビジネス」発言に反論する【池戸万作】
日本の経済成長を巡って、私と成田悠輔イェール大学助教の論争が大変話題となっている。年始にABEMA Prime上で行われたこの議論の動画の再生回数は、放送から1ヶ月経った今日までに、実に170万回超えるほどになっている。また、私との議論では「唯一の解決策など無い」と述べていた成田悠輔氏であったが、過去に「唯一の解決策は高齢者の集団自決」と述べていたこともあり、この発言がニューヨーク・タイムズ紙にまで取り上げられ、全米を揺るがす事態になるなど、その後の反響は凄まじいことになった。出演した本人としては、大いに議論がなされればと思っていたので、その点では大成功だったと言える。
一方で、最初のプレゼン時間が3分と大変短く、放送時間も30分余りだったために、私自身の説明不足で上手く視聴者に伝え切れない部分も往々にしてあったと反省している。今回はこの場をお借りして、賢明な読者の方々には釈迦に説法かもしれないが、マクロ経済の超基本的な部分から、放送では説明不足だった点について述べていきたい。
■そもそも経済成長とは何か?
まず、番組内で認識が共有されていなかった点として、「そもそも経済成長とは何であるか?」といったことがあるかと思う。経済成長とは、よくニュースなどで「経済成長率」と言われるように、前年と比較して「GDPが増えること」であると定義できる。
そのGDPには二種類あり、金額をベースとした名目GDPと、物の量をベースとした実質GDPがある。名目GDPは見た目の金額ベースなので分かりやすい。私が番組で話していた内容も主にこちらの名目GDPを念頭に置いたものとなっている。対して、恐らく成田悠輔氏が念頭に置いていたであろう方が実質GDPで、こちらはある年の名目GDPを基準として、その年から物価上昇率分を調整したものが実質GDPとなる。
例えば、ある基準年に100円の物が10個売れたとすると名目実質共にGDPは1000円となる。そこから、次の年に100円の物が11個売れたとすると、名目実質共にGDPは1100円となり10%の経済成長となる。対して、100円の物が110円に値上がりしたが、売れた個数が10個のままであると、名目GDPでは1100円と10%の経済成長となるが、売れた個数はどちらも10個で変わりはないので、実質GDPでは基準年の物価の100円×10個で1000円のままである。経済成長率も0%となり、実質では経済成長していないこととなる。このように、物の総量がより多く売れることが実質経済成長となる。
次に、支出面のGDPを表す計算式は、GDP=個人消費+民間投資+政府支出+純輸出(輸出-輸入)である。この計算式は番組内でも少しは触れたが、大変重要な点なので、もっと強調して伝えるべきだったと反省している点でもある。この式に関しては次章で詳しく触れる。
また、GDPは支出面・生産面・分配面、いずれにおいても金額が必ずイコールになる(統計上は多少の誤差が出ることもあるが)。これを「三面等価の原則」と言う。人々が物やサービスに対して支出をして、その支出に見合うだけの生産も行われ、そしてその売り上げが労働者のお給料などへと分配されて行く。これが経済の基本的な流れである。
さて、経済成長と言うと、イノベーションが起こりiPhoneなどの画期的な商品が開発されることや、生産性が向上してより多くの物が生産出来ることだと認識しているのが、多くの日本人が持つイメージではないだろうか。しかし、仮にこうしたことが起きたとしても、必ずしも経済成長に繋がるとは限らない点がミソである。
何故ならば、先ほどから述べている通り、物やサービスが売れた時に初めて経済成長となるからである。新たに多くの物を生産したところで、その物が売れなければ経済成長とはならないのである。また、iPhoneのような画期的な商品が10万円で発売されて仮に大ヒットとなっても、国民がその10万円の商品を買うのに、他の商品などへの支出を10万円分減らしたのであれば、トータルの支出ではプラスマイナスゼロとなり、これまた経済成長とはならないのである。この点を経済学者も含め、多くの日本人が経済成長に対して誤解していると感じる。その点を踏まえた上で、GDPの計算式について見ていこう。