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ウクライナ戦争と「反グローバリズム聖戦」【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」47

 

「日本にとって」の視点を持て

 しかしアメリカがロシアにやろうとしていることと、ロシアがウクライナにやろうとしていることが、本質において同じだとすれば、「ウクライナ支援=反権威主義聖戦」という発想も正しくありません。

 だったら「ウクライナ侵攻=反グローバリズム聖戦」というプーチン流、ないしドゥーギン流の発想も正しくなってしまうのです。

 ならば、どのような姿勢を取るのが正しいのか?

 

 ここで注目すべきは、「グローバリズムに反対する国は~」という主張と、「権威主義に反対する国は~」という主張に、面白い共通点があること。

 ウクライナ戦争をどう評価し、どう対応するかについて、どちらも普遍的な正解があることを大前提にしているのです。

 くだんの正解から導き出される結論が、逆になるだけの話。

 

 けれども「ウクライナ戦争と近衛文麿の洞察」(令和の真相44で論じたように、戦争をどう評価するかについて、普遍的な正解など存在しない。

 戦争とは武力の行使によって現状を大きく変えようとする試みである以上、特定の戦争をめぐる評価は、国際社会の現状が、自国にとってどこまで望ましいかによって決定的に変わるのです。

 そして私の見るところ、国際社会の現状は以下のように要約できる。

 

 (1)アメリカの世界的な覇権は、さまざまな弊害をもたらしたあげく衰退しつつある。

 (2)これを受ける形で、地域覇権を確立しようとする試みが顕在化している。中国、およびロシアはその代表例である。

 

 くだんの現状は、日本にとってどこまで望ましいか?

 これこそ、ウクライナ戦争を「日本にとって」正しく評価するための出発点なのです。

 当の評価は、他国にとっての正しい評価と同じではない。

 いや、違って当たり前。

 それが主権の何たるかですよ!

 この先は次回、お話ししましょう。

 

文:佐藤健志

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佐藤 健志

さとう けんじ

評論家・作家

 1966年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。

 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。

 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。

 主著に『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『右の売国、左の亡国 2020sファイナルカット』(経営科学出版)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)など。共著に『新自由主義と脱成長をもうやめる』(東洋経済新報社)、『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』(VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。

 2019年いらい、経営科学出版でオンライン講座を制作・配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻、『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻を経て、最新シリーズ『経世済民の作劇術』に至る。2021年〜2022年には、オンライン読書会『READ INTO GOLD〜黄金の知的体験』も同社により開催された。

 

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