「いい作品を作り続ける土壌を守るため」インボイスに反対する声優たちが見た現実
Q.与党と野党で対応の違いというのはあるのでしょうか?
甲斐田・西森:全然違います(笑)。
咲野:確かに対応の違いはあるかもしれない。ただ、与党・野党関わらず、制度についての知識がある議員は「個人的には反対」と言うんですよ。賛成するのはよくわかっていない議員で、口を揃えて「もう決まったことだから仕方ない」と言う。しっかり理解した上で賛成している議員は一人もいませんでした。接していればよくわかります。活動を重ねるうちに永田町で我々の知名度がアップして、向こうもインボイスありきで話を進めてくるようになりました。そうすると与野党というくくりを超えて、「人としてどうか」というところがよく見えるようになってきましたね。
Q.制度への反対活動をしていく中で、辞めようと思ったことはありますか?
西森:それはありません。
甲斐田:私もないですね。機械的な対応をされたり、心ない言葉をかけられたりして疲れてしまうことはありますが、そんな時はみんなでお茶しながらワーッと話して発散しています。状況を整理しないと頭は沸点に達してしまうけど、だからと言って活動自体がイヤになることはありません。反対にそれが熱量になります。
Q.「これは熱くなったな」という陳情はどのようなものでしたか?
甲斐田:そうですね……ある市議会議員に陳情したとき、彼は経営者でもあるので「わかりあえるんじゃないか」と少し期待していたんですが真逆でした。「ずるい」とか「消費税は平等」と言われて。消費税=平等という前提でお話をされるんですが私はそう思っていなくて、こちらの考えを伝えようと2時間くらい話をしたんですがダメでした。会話はするけどこっちの話が全然届かない。「益税だから」「個人事業主は必死さがない。もっと働けばいい」「夢は早めに諦めてちゃんとした職に就いた方がいい。その方が人生無駄にしないよ」なんて。どうして弱者の気持ちに寄り添うことができない人が政治家になっているんだろうって、悲しさと怒りの混ぜこぜで段々ヒートアップしちゃいました。
西森:経営者だからこそ、個人事業主や零細企業の気持ちをわかって欲しいですよね。成果の出し方も人によって様々ですし、この社会は複雑なバランスで成り立っている。一定の成果を出していなければ切り捨てる、というのはあまりにも横暴ですよ。
甲斐田:弱者を助けるのが政治だと思うのですが、今は何か違いますよね。意見を聞くのではなく、意見する人を黙らせるような態度で接してくる政治家が多いように思います。
Q.VOICTIONは声優さんたちの集まりですが、東京土建や税理士の方とも一緒に活動をしていますよね。普段会うことのない方々と活動するきっかけはなんだったのでしょう?
甲斐田:税理士さんは元々STOPインボイスと連携されていたので最初から一緒に活動しています。東京土建さんは先方から「うちの業界紙にVOICTIONさんを掲載したい」とアプローチがありました。一匹狼の個人事業主が団結するには少しずつでも色んな業種の人を増やしていくのが大切で、ちょっとずつメールを送ったり、連絡したりして広げています。
咲野:政治家さんに会うととにかく「数を持ってこい」と言われるんですよ。ですから他業種との連帯は必要不可欠です。
西森:そもそもインボイスって、すべての人に関わってくる問題なんですよね。消費税の問題ですから。それをみんなが知れば、業種関係なくもっとたくさんの反対の声が上がってくるんじゃないかと思います。
Q.インボイスに関するマスコミ報道は扱いが小さいと思うのですが、いかがでしょう?
甲斐田・西森・咲野:小さいと思います。
咲野:消費税の軽減税率が新聞にも適用されているからか?とも思えるくらい全国紙は扱ってくれない。あれだけ「周知徹底、周知徹底」と繰り返すのに、大手メディアはほとんど無視しているような印象です。
甲斐田:たった2%の軽減税率でここまでの忖度が起きる日本で10%、15%の多段階税率が設定されたら、癒着の温床になるのではと危惧します。あとは、説明が難しいというのがあると思います。制度が複雑で、わかりやすく伝えるのが大変なんじゃないかな。
咲野:だけどアニメージュ(※)さんみたいな伝え方もあるわけですよ。伝え方を工夫するのが記者の仕事であり、ジャーナリストだと思うんです。別にこちら側の目線で書いてくれというわけではなく、事実を事実として伝えてほしいだけなんです。日本は報道の自由度ランキングが世界で71位とされています。先進国と言いながら、発展途上国や独裁政権国家と並ぶ状況です。声優業界は不景気のせいで作品のクオリティが明らかに下がってきていて、インボイスが絡むとさらに下がるのは目に見えている。VOICTIONの活動動機としては「自分が関わっている作品のクオリティを下げたくない」というのが第一なんです。報道に携わる人たちも、様々な要因で報道のクオリティが下がっていることを真摯に受け止め、改善してほしいと思います。