広末涼子からSPEED、ハロプロ、AKB&坂道まで。「合法的売春」としてのアイドルポップス最強論
海外からも愛される「日本のアイドル文化」の本質
■アイドルポップスがやっぱり最強の理由
満員の通学電車で何者かにスカートを切られた少女のやり場のない怒りとあきらめを描き、尾崎豊あたりのメッセージソングも想い起させる内容。しかし、タイトルにもなっている光景が鮮烈すぎるため、視姦的かつ嗜虐的な萌えも刺激する。どこまで狙っていたかは不明ながら、社会派的な装いにエロスを潜ませることに成功した快作といえる。
フェミニスト界隈からは「女性蔑視」「不謹慎」という批判も出たが、そういう人たちを怒らせるようなところにこそ、アイドルソングの魅力がある。無茶はせずとも、ギリギリを攻められるのが、秋元の真骨頂だ。
最後にもうひと作品、ややマイナーながら、夢みるアドレセンスの「メロンソーダ」にも触れておこう。
作詞作曲を手がけたのは、ロックバンド・ハンブレッダーズのムツムロアキラ。メロディーは前出の「ヘビーローテーション」あたりを思わせる。詞の内容は、アイドルでありながら一般の男の子に思いを寄せる少女の禁断の恋だ。
その男が他の女子を好きなのではと気をもみながら「わたしがいちばん可愛いのに」と拗ねてみたり、もし告白されたら「アイドルだって辞めちゃうから!」と決意してみたり。なかでもグッとくるのが「間接キスが恥ずかしくて」メロンソーダをひと口も分けてあげなかった、というタイトルにもつながるエピソードである。
恥ずかしがる少女の姿ほど、萌えるものはない。前出の作詞家・売野雅勇もかつて「赤面するという気持ち」について「感情が持っているいちばん美しい機能」だと語っていた。
ちなみに、昭和のアイドル・桜田淳子は通算8作目のシングル「はじめての出来事」で初キスを歌い、生涯唯一のオリコン1位を獲得した。突然の口づけによる「はげしいはじらい」で揺れ動く彼女に、コアなファン以外も欲情し、同性は憧れたのだ。
「メロンソーダ」にはそんな古き佳きアイドル歌謡の伝統が半世紀近くたってもまだ受け継がれているという歓びを感じた。希望はまだまだ捨てずに済むだろう。
世の中に少女がいて、アイドルという文化がある限り、アイドルソングは最強だ。
文:宝泉薫(作家・芸能評論家)