なぜ、いま田中角栄なのか…「名言」で振り返るその人間力
【連載】「あの名言の裏側」 第3回 田中角栄編(1/4)世の中は、白と黒ばかりではない
戦後日本を代表するリーダーのひとりであり、良くも悪くも耳目を集めた人物だけあって、田中氏は多くの名言を残しています。というよりも、評伝のような形で膨大な数の逸話が語られ、さらにそれらがまとめられて名言集になり……と絶えることなく語られ続けたきたと捉えるのが正しいのかもしれません。
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世のなかは、白と黒ばかりではない。その真ん中に広大なグレーゾーン(中間地帯)がある。天下というものは、このグレーゾーンを味方につけなければ、決して取れない。真理は、常に中間にあり。
(向谷匡史『田中角栄 相手の心をつかむ「人たらし」金銭哲学』より)
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田中氏は、気づかいや配慮に長けた人情家としてよく語られる一方、非常に合理的でムダを嫌うリアリストとしての一面も持っていました。一見、相反するような性質が渾然一体となったような人物像。そうした性質が、この発言からも見て取れるのではないでしょうか。政治家としての田中氏は、清濁併せ呑むことを地で行く、度量の大きな人物でした。そうした人間性の根幹を成していた要訣のひとつが、「グレーゾーンにこそ真理がある」という意識なのかもしれません。
物事は、そう単純に甲乙を付けられるわけでもなければ、安易に割り切れるわけでもない。人間も同じで、いつも迷ったり、間違ったり、悩んだりしてしまうもの。だからこそ、どっちつかずで曖昧な状態にある「中間(グレーゾーン)」を受け入れて、大切にしていかなければならない。そんなふうに解釈すると、妙に励まされる言葉としても響いてきます。完全ではない“人間”という存在そのものを肯定してくれるような箴言です。
というわけで、これから数回、田中氏の人間力に注目しながら、その名言を取り上げていきます。次回は、ワンフレーズでエリート官僚たちの心を鷲掴みにしたと伝えられている、伝説的な挨拶について触れていきましょう。
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