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ウクライナ戦争を対米自立の契機とせよ!【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」48

 

◆二段構えの国家戦略を持て!

 そのかぎりにおいて、国際秩序の現状は肯定されるべきもの。

 ロシアを非難し、ウクライナを支援するのが正解となります。

 ただし、話はここで終わらない。

 「米欧、とくにアメリカの世界覇権」という、国際秩序の現状に見られるもう一つの側面は、わが国にとって便利なものではなくなってきているためです。

 

 自由民主主義の優越は支持しつつ、アメリカの覇権からは距離を取る。

 わが国の取るべき戦略は、このような二段構えのものでなければなりません。

 具体的には、米欧と共同歩調を取るように見せつつ、対米従属を脱却する契機としてウクライナ戦争を活用するということです。

 「ウクライナ戦争と『反グローバリズム聖戦』」で指摘したとおり、アメリカがロシアにやろうとしていることと、ロシアがウクライナにやろうとしていることは、本質において同じなのですから、ウクライナを支援することと、アメリカの覇権を批判することは、決して矛盾しません。

 

 「ロシアの行動は、ウクライナの主権を侵害する点で容認しがたい。したがって、わが国はウクライナを支援する。ただし自由民主主義諸国が自己の正義を絶対視し、世界全体に広めようすることも、国際秩序を揺るがすリスクをはらむ。自由民主主義が、権威主義より優れた政治体制だとしてもそうなのである!」

 これこそ、わが国が取るべき姿勢なのです。

 

 一極支配の非民主性を直視する点で、この姿勢は多極化志向の側面を持つ。

 ただしプーチンや習近平の提唱する多極化が「権威主義を前提として、アメリカの覇権に対抗する」ことをめざすのにたいし、こちらは「自由民主主義の優越を前提としながら、アメリカへの追随に歯止めをかけて、自国の主権を強化する」ことをめざしています。

 戦前のあり方と戦後のあり方を望ましい形で融合する、そう形容することもできるでしょう。

 

 私は『平和主義は貧困への道』や『感染の令和』において、戦前と戦後の間にきちんと筋を通せないことこそ、現在のわが国の行き詰まりの真因だと論じてきましたが、くだんの融合が達成されれば、この問題も解決へと向かうはず。

 いかなる国にたいしても、自国の国益にかなうかどうかで、協調の度合いを決めてゆくのが、まともな主権国家ではありませんか。

 米欧、つまりアメリカと西ヨーロッパ諸国にしたところで、いつも一枚岩というわけではないのですぞ。

 

 とはいえ現在、わが国が取っている姿勢は、そのような剛毅さとは程遠い。

 岸田総理は326日、防衛大学の卒業式においてこう訓示しています

 

 【今年5月の広島サミットなどの機会を通じて、G7の結束を主導し、G7として法の支配に基づく国際秩序を守り抜くという決意を示したい】

 【自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値や原則を重視しつつ、日米同盟を基軸とし、多国間協力を推進する、積極的な外交を展開していく】

 

 G7、つまり米欧の結束を主導したうえで、日米同盟を基軸とした外交を展開すると来るのですから、二度繰り返される「法の支配」なるものの内実が、「米欧、とくにアメリカの覇権支配」なのは明らかでしょう。

 早い話が、これからも対米従属を続け、極東現地妻に徹するという決意表明。

 わが国が真に自立する日は、まだまだ遠いのでありました。

 

文:佐藤健志

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佐藤 健志

さとう けんじ

評論家・作家

 1966年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業。

 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。

 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。

 主著に『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『右の売国、左の亡国 2020sファイナルカット』(経営科学出版)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)など。共著に『新自由主義と脱成長をもうやめる』(東洋経済新報社)、『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』(VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。

 2019年いらい、経営科学出版でオンライン講座を制作・配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻、『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻を経て、最新シリーズ『経世済民の作劇術』に至る。2021年〜2022年には、オンライン読書会『READ INTO GOLD〜黄金の知的体験』も同社により開催された。

 

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