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「組織」と「人」の真価はどこで露呈するか? 会社組織の「人間関係」論【福田和也】

福田和也の「価値ある人生のために」

写真:PIXTA

 

■上司の、一見無意味な言葉の「文脈」を探ること

  いずれにしろ、会社が巧(うま)くいこうが、悪かろうが、この「見る」ということは、とても大事なことだ。

 新入社員にとっては、特にね。

 これは、若い人だけの問題ではないんだけれど、この頃では、自分がどう見られているか、どう評価されているか、ということにはとても関心があるのに、人のことをきちんと見ていないような気がする。

 とても、浅い印象とか、好悪、あるいは相手が自分にどういう姿勢で接しているか、というような自己中心的な態度で、相手の評価を決めてしまいがちだ。

 でも、本当に大事なのは、人が自分をどう見ているかということではない。それはそれで、基本的な認識としては大事だけれど、自意識過剰におちいってしまっているだけのように思われるんだ。

 そうではなくてね、一人一人が、どういう人なのか、ということを、まずしっかりと見極めることが大事なんだよ。

 駆け出しの時には、よくよくそういう観察をすることが大事だ。

 できれば、会社でその日、君にたいしてかけられた言葉とか、君への指示、誘いといったものを、一日の終わりに反省してみることを勧める。

 上司が、君に与えた指示、先輩の叱責、同僚との世間話。そういう、一見、意味がないように見える言葉の一つ一つに、よく考えると、「文脈」があることが分かるだろう。そして、その文脈には、相手が君にたいして抱いている判断や好悪だけでなく、その人の会社での「位置」や「意識」、「憤懣(ふんまん)」や「屈託(くったく)」といったものが表れていることが分かるんじゃないか。 

 たとえば、君にたいして、とてもそっけない人がいるとする。話しかけても応えてくれない。何か手伝おうとしても、乱暴に断る。

 こういう場合、自分は嫌われているんだ、とか、相手をいやな奴だ、と考えてしまってはいけない。それでは落第だ。

 返事をしてくれないのは、新入社員などという存在に興味がないからかもしれない(しっかり仕事をしている人の多くは、本気で新入りに興味をもったり、期待もしない。ただ「儀礼」として興味をもっているだけだと考えたほうがいい。もしも本当に興味をもっている人がいるとすれば、それはよほど暇な人か、下心のある人だし、新入社員に本気で何かを期待しているとしたら、その人は、ただの間抜けだ。ただし、部下の指導・育成ということで、君の成績が社からの評価に影響する上司は別。それにしたって、気にしているのは、自分の成績であって、君自身じゃない)。こういう人ならば、君がそれなりに力をつけてくれば、相応に尊重してくれるだろうから、気にしなくていいし、多少のことなら、恨みに思ったり、ひねこびた態度をとってはいけない。

 仕事上か、あるいは一身上の大きなトラブルを抱えて、大きな不満か屈託を抱えている人が、無力な新入りをいたぶるというのは、よくあることだ。また、あまり能力がない人の場合は、たとえ新人でも、自分への脅威として受け取る場合があり、早めに潰しておこう、などという発想をするケースも少なくはない。こういう相手からは、さらに大きないやがらせをされたりするから、警戒をしなければならない。

 あるいは、無根拠な勘ぐりをされている場合や、君が気づかないうちに、相手を刺激している場合もありうる。これをときほぐすには、会社や部課の人間関係などに、かなり知悉(ちしつ)しないと難しい。まったく知らないうちに、職場での敵対関係や派閥などにかかわる地雷を踏んでいる可能性がある。

 さらに、君のいろいろな属性が嫉妬や嫌悪を買っている場合もある。そんなバカなと云ってはいけない。世間の人の感情のかなり大きな部分が、「嫉妬」と「羨望」ででき上がっているということを、銘記しておかなければならない。

(『福田和也コレクション1:本を読む、乱世を生きる』より抜粋)

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福田 和也

ふくだ かずや

1960年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部仏文科卒業。同大学院修士課程修了。慶應義塾大学環境情報学部教授。93年『日本の家郷』で三島由紀夫賞、96年『甘美な人生』で平林たい子賞、2002『地ひらく 石原莞爾と昭和の夢』で山本七平賞、06年『悪女の美食術』で講談社エッセイ賞を受賞。著書に『昭和天皇』(全七部)、『悪と徳と 岸信介と未完の日本』『大宰相 原敬』『闘う書評』『罰あたりパラダイス』『人でなし稼業』『現代人は救われ得るか』『人間の器量』『死ぬことを学ぶ』『総理の値打ち』『総理の女』等がある。

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