ChatGPTに脅威を感じる前に、自分はちゃんと「人間」をやっているかを振り返ろう【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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ChatGPTに脅威を感じる前に、自分はちゃんと「人間」をやっているかを振り返ろう【仲正昌樹】

「AI以下」の人間とは? 「人間」らしく判断する能力とは?

イタリアで「ChatGPT」を一時使用禁止に

 

■「人間」らしく判断する能力とは何か?

  外国語を教える教員の多くが感じることだが、人間は他人と直接向き合い、相手の身体的な動きを見ながらでないと、うまく会話できない。母国語で話す時と同じような調子で、ちゃんと声が出せない。相手に通じにくい。相手の顔を見ながら会話する練習をしないと、外国語は上達しない。そういう習慣が学校時代に身に付いていない学生は、受験が終わって大学に入ると、語学嫌いになる。

 また、私たちは事務所や学校などで、一緒に仕事し、勉強し、会議する時、お互いの態度を観察したり、ちょっとした会話したりすることで、いろんな情報を得ている。リモート会議だけだと、フォーマルな情報だけのやりとりになり、そうした雑音のようなものから、あまり意識することなく取捨選択して情報に接する機会が減る。そうすると、「人間」らしく判断する、という能力は次第に落ちていくだろう。暗黙知(マイケル・ポランニー)及び社会関係資本(ロバート・パットナム)が減少するわけである。

 東浩紀が「動物化」と呼んだ現象は、結局のところ、ネット上の特定の趣味のサークルでの、ごく限定されたやりとりだけしかやっていないせいで、一般的なコミュニケーション能力が低下し、他の人たちと話が通じなくなること、共通の趣味などない人、普段チャットをしていない人にどういう言葉を使って働きかけたらいいか、分からなくなることから生じてくる問題だ。

 政治的テーマに関して、同じような思い込み、陰謀論を共有している者同士が、閉じたサークルでやりとりしていると、偏った意見の仲間から肯定してもらうことで自信を持ったり、もっと極端なことを言って――仲間内で――目立とうと競い合っている内に、どんどん過激化したりするのが、サイバー・カスケード(キャス・サンスティン)と呼ばれる現象だ。当然、仲間内でない人には、頭のおかしな人たちのたわごとにしか聞こえないか、何を言っているのかさえ分からないわけだが、本人たちは、それは世間の多数派が愚かで、自分たちは、世界に先駆けて真実を知った選民だという証拠だと思い、確信を強める。

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✳︎重版御礼✳︎

哲学者・仲正昌樹著

『人はなぜ「自由」から逃走するのか:エーリヒ・フロムとともに考える』(KKベストセラーズ)

 

「右と左が合流した世論が生み出され、それ以外の意見を非人間的なものとして排除しよ うとする風潮が生まれ、異論が言えなくなることこそが、
全体主義の前兆だ、と思う」(同書「はじめに」より)
ナチス ヒットラー 全体主義

 

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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