稀代の政治思想エンターテイナー
副島隆彦氏の「反共本」を読む
だれも言わないことをズバリと言う「真実言論」の極致
『日本が中国の属国にさせられる日』――なんという恐ろしい書名の本だろう。
金融・経済評論家の副島隆彦氏が、このほどKKベストセラーズから出版した本のタイトルだ。
副題に「迫り来る恐怖のシナリオ」とある。
しかし、この本の34頁を読んで、読者はぶっ飛ぶだろう。そこには、なんと、こう書かれているのだ。
《この本の書名は、『日本が中国の属国にさせられる日』である。ところが、日本が中国の属国にさせられていく途中の細かな進行過程(ロードマップ)を書いてゆくことに私は失敗した。この本ではできなかった。そのうち書きますから、待っていてください。》
どひゃー、である。著者自ら、堂々の失敗宣言をしているのである。
では、272頁もあるこの本の残り240頁近いページに、一体この本は何を書いているのであろうか。
それが問題なのだが、書かれているのは、せんじ詰めればわずかに2つ。
① 共産主義・社会主義がこれまで世界でいかにひどいことをしてきたか。
② しかし、共産主義・社会主義を憎み、嫌い、恐れた右派の人々には、ただ「反共主義」の信念しかない。それ以外、彼らの頭の中に何もない。
ただ、この2つのことを延々と、これでもかこれでもか、というぐらいのしつこい筆致で繰り返している。共産主義・社会主義を恐れた側が犯した「弾圧」という名の、人民に対するおぞましい仕打ち・暴虐も余すところなく記述している。
一体、この本はなんなんだ?
この本は、一言で言ったら、稀代のエンターテイナーが、大舞台のステージに逆立ちして現れたのだと、思えばいい。
逆立ちしたままステージに登場して来たエンターテイナーが、観客に向かってこう叫ぶ。
「あれあれ、みなさん、なんでそんなところで逆立ちして座ってんですか? 頭に血が上りますよ。さあ、早く、早く、普通に足を床に下してくださいよ」
一生懸命にそう叫ばれた観客は、最初はみんな笑って見ている。だが、そのうち、なんだか居心地が悪くなってくる。どう見ても、逆立ちしているのはエンターテイナーのほうなのだが、まじめにいつまでも叫ぶエンターテイナーを見ていると、なんだか、笑えなくなってくるのだ。本当は、逆立ちしているのは、自分のほうなのではないか。ふとそんな思いが頭をよぎる。
本書は、かつて、『属国・日本論』(五月書房)で、「日本は米国の属国である」論を展開した著者が、いままた、「日本はこのままでは中国の属国になってしまいますよ、これでいいのか、悪いのか、自分の頭でよっく考えてみなさい」と語った本である。
答えは一人ひとりの読者に委ねられいてる。
だが、自分に都合のいいこと、自分の心に気持ちのいいことばかりを自分に言い訳として言って、自分を誤魔化したりしないで、自分の醜いところも、恥ずかしいところも全部さらけ出して、本気で自分の頭で考えてください、と迫ってくる。
思想書にして、これだけアクロバティックなエンターテインメントを書ける著者の漫才芸に脱帽である。 (終)