元AKB・岡田奈々の体重公開騒動に見る「痩せ姫」の恍惚と不安【宝泉薫】
その思いを代弁してくれるかのような文章を最近見かけた。野毛坂グローカルという団体による小論文コンテストで優秀賞に選ばれた「痩せ姫を取り残さない社会を作りたい」(宮本紗有)という文章だ。
著者は高校2年の女子。痩せ姫についての理解や愛情にあふれる指摘が、随所に見受けられる。
「私は、痩せ姫が持つ外見、そして精神の美しさは多くの健常者も感じ得る、万古不易のものであると考えており、私自身が一番強く惹かれるのも痩せ姫の精神性である。内面的な苦しみが外見にまで滲み出ていることに美を感じるのだ。これは私の主観にとどまる話ではない。痩せ姫という言葉が生まれるよりずっと昔から、女性のやつれる物語は評価されてきた」
「摂食障害は苦しい病だ。精神的苦痛と身体的苦痛の両方に見舞われ、時間やお金、場合によっては周囲からの信頼や、就職や進学などの選択肢も失ってしまう。痩せ姫にとって、多くの人が人生の中で当たり前に享受している様々な物を犠牲にし、ようやく手に入れた、唯一にして最大の宝物である痩せを否定されるということは、人格の否定だ」
彼女は痩せ姫という概念が負の影響も及ぼすという意味で両刃の剣でもあることを認めつつ、当事者にとっての救いとして独特の効果をもたらすものだと説く。よくぞここまで冷静かつ切実な痩せ姫論を書いてくれたものだ。
実際、痩せ姫はネガティブな反応をされやすい。
5月6日放送の「報道特集」(TBS系)では、摂食障害とクレプトマニア(万引きなど盗みへの依存症)を併発した症例が取り上げられた。視点そのものは擁護的だったものの、当事者からは「全員が万引きするわけではないのに」という不満の声も。また、4日には「最強大食い王決定戦2023」(テレビ東京系)が放送されたが、こうした「大食い」に対しても、最近は批判が増えている。それこそ「過食嘔吐」と結びつけ、病的だとして嫌悪するものもあるわけだ。
ただ、そういう状況だからこそ、痩せ姫を肯定することが希望にもなる。前出の女子高生は「楽園」と形容したが、そこまではいかなくとも、砂漠の中のオアシスのような、一瞬でもほっとできる感じを痩せ姫という概念から受け取ってもらえればと思うのである。
かといって、別に、正義感とか同情心とかでやっているわけでもない。ただ、痩せ姫が好きだから、もうちょっと理解されたり、ちやほやされたりしてほしいのだ。
そんなわけで、岡田奈々の体重公開に関しても、肯定的なものを紹介しておく。
「動けるのが不思議なくらいの細さだったのに卒業までよく頑張れたと思います」「アイドルっていうものは自分の命を削ってやるものなんだということなんだろう」「羨ましい。今の自分の体重を約半分に減らさなければ、なぁちゃんに追いつけない。まだまだ努力が足りない」
といったコメントも、ちゃんと見つけることができた。
そもそも「こんな体型、誰も憧れない」という声がある一方で「真似する人がいそうで心配」という声があるのは、矛盾しているともいえる。世間もまた、痩せ姫という存在に、じつは禁断めいた特殊な魅力を見出しているのではないか。
多くの人が痩せることにとらわれている世の中の「恍惚と不安」をも、痩せ姫は象徴しているのかもしれない。
文:宝泉薫(作家・芸能評論家)