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なぜ1970年代で「スポ根ブーム」は終わったのか?

浮遊した感覚で生きる世代

「巨人の星」「あしたのジョー」「タイガーマスク」……60年代のスポ根ブームを経て迎えた70年代とはどんな時代だったのか。『見下すことからはじめよう』の著者・山田玲司が「厳しい時代」というキーワードから読み解く、70年代と2000年代の共通点とは?

「ここではないどこかブーム」と「ファンタジーブーム」

イラスト/山田玲司

 1960年代後期から、1970年代の漫画の主人公は「自らの力(努力)」で貧困や差別と戦っていた。それがいわゆる「熱血」で、梶原一騎に代表されるスポ根ものの全盛期だった。その戦いに学生運動の若者たちは自分を重ね、60年代後期に、その人気はピークに達した。
 しかし、その学生運動が挫折に終わった70年代、時代は完全に「シラケ」てしまい、「同棲モノ」のような日常系にシフトしていく。
 実際「あした」を目指した「ジョー」は灰になってしまい、星飛雄馬は手首を壊し、選手生命を終わらせてしまう。農民の自由を獲得するために戦った「カムイ伝」のラストも、仲間はみな殺され、主人公の一人は舌を切られる、というバッドエンドで終わる。
 権力側に「若造はもう発言するな」と言われる、という強烈なメッセージだ。70年代は「私たちは挫折した」という気分で始まったのだ。

 挫折の傷の冷めないまま、社会にも順応できない若者たちは、旅を始める。一度ここから離れてみたい、という気分が「空前の旅ブーム」を盛り上げるのだ。
 この世代を代表するヒーローが松本零士と本宮ひろ志だった。松本零士の代表作品はみんな「旅」をしている。「ここではないどこか」を目指し、自由のために戦う。四畳半の惨めなアパートも、押し入れから宇宙に旅することができたりする。
 この時代は空前の「宇宙系SF」の時代で、「アース・ウィンド・アンド・ファイアー」や、「未知との遭遇」、それに60年代後期の「精神世界」のブームも乗っかって、若者は「現実」を離れようと必死だった。
 この雰囲気は後の2000年代の「ここではないどこかブーム」や「スピリチュアルブーム」にも重なる。時代が厳しくなると、人は逃避し、遠くから自分を見つめようとするのかもしれない。

 もう一つの2000年代との共通点は「ファンタジーブーム」で、人は不安な現実を直視できずに「特別な魔法」を求めた。その一つが件のスター・ウォーズに出てくる「ジェダイ」であり、ガンダムに出てくる「ニュータイプの持つ力」で、その両者とも願いは「世界の安定」だった。
 70年代に一部の人たちが「現実から抜け出す夢」を見ていたのに対して、実際に世界を旅したり、国内の旅(北海道の割合が高かった)をする人も激増した。
 一度ゆっくり世界を見てから落ち着きたい、という気分に、どハマりしたのが、本宮ひろ志の「俺の空」だった。航空自衛隊勤務の経験のある彼は、どこか「戦争体験者」の雰囲気があり、ガキ大将の抗争という、現実的な男のロマンを正面から描いて、人気漫画家となった人だった。
 後の「ケンカしたことのない漫画家」とは違い「実際に戦ってきた雰囲気」のある漫画家だった。そんな彼が、大財閥の御曹司が、嫁を探すために全国を放浪する、という物語を描いたのが「俺の空」だ。
 松本零士と本宮ひろ志は、「ロマン」の漫画家だ。70年代前期までの、現実と格闘した世代(梶原一騎、ちばてつや、白土三平)から、半分浮遊した感覚で生きる世代へと時代は変わり、そこにまた「壁」は生まれている。

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山田 玲司

やまだ れいじ

マンガ家。1966年東京都生まれ。小学生の頃から手塚治虫に私淑し、20歳でマンガ家デビュー。オタクがモテるまでの道のりを描いた『Bバージン』(小学館)で一気にブレイク。女性のための恋愛コミックエッセイ『モテない女は罪である』(大和書房)や『AM』での恋愛コラム『山田玲司の男子更衣室へようこそ』などを手がける。著名人へのインタビューマンガ『絶望に効くクスリ』シリーズや、『非属の才能』(光文社新書)といった新書でも知られる。どの作品にも、「どこにも属せない感覚」を持った若者たちへのメッセージが込められている。ニコニコチャンネル「山田玲司のヤングサンデー」を毎週水曜日に放送中。 

公式サイト http://yamada-reiji.com/

Twitter:@yamadareiji


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