「眠気の解消」「集中力の持続」「課題の処理速度」を求める人たちの罠【大竹稽】
大竹稽「脱力の哲学」1
■伝説の和尚の挫折はこうしてやってきた
まぁ、身体は正直ですよね。
ある時から、午後夕方のパフォーマンスがガクッと落ち始めたそうなのです。それでも夜行を続けたこの和尚も和尚ですが、自分の思い描いたようにはいかないのが身体です。ある時、40度の熱が出て倒れてしまいました。「鉄分不足による貧血」と診断されたそうだが、原因は、間違いなくカフェイン剤。「夜行やってるな?」なんて診断が出されなくてよかったですね。
こうして和尚は、夜行という「特例行事」を自主的に終えました。やめ時を、周りにバレる前に身体がちゃんと教えてくれたのは、不幸中の幸い。もし、身体への負担が隠れたまま夜行を続けていたら、さてさて、どうなったでしょう。
一般的に「集中」は、「ブレない」「持続する」ことが「理想」とされます。そうなれば、「処理速度」も上がり、「生産量」も上がる。だから、いろいろなものが気になってキョロキョロしてしまう人には、処理速度と生産量が平均以下になるから、「集中力のないダメなヤツ」なんて烙印が押されてしまいます。
一方で、機械は余所見なんかしません。だって、そもそも、身体がないから感覚もありません。だからカレーの匂いがしてきたからってそれを感じないし、笑い声も聞こえない。頭痛にも眠気にも無縁です。
でも、わたしたちの感覚はそれらをちゃんと受け取ってしまうのです。
ところで、この伝説の和尚が身を以て教えてくれたことがあります。薬によって得た集中は、確かに強力です。処理速度が上がり、テンションも上がる。イノシシのようにゴールまでまっしぐら。だが弱点があります。
「与えられた課題しかクリアーできない」のです。
やるべきことを与えられないと、この集中力は無駄になります。イノシシに喩えましたが、イノシシに申し訳なかった。実際には「機械」になっているから、誰かにミッションをインプットしてもらわないと動けません。
機械は、文句も疲れもなく、弛まず、与えられた課題を黙々とクリアーする。しかし、目標を与えられなければ動けません。人間は、与えられなくても動く。関心や好奇心が導いてくれます。しかし、疲れるし眠くなるし、文句も言いたくなるし、退屈になります。集中が乱れないほうが奇跡でしょう。
「機械か人間か?」なんて二択にはなっていますが、実質、一択でしかありません。わたしたちは「人間のままでいる」しかありません。
機械になっちゃダメ!
理想とは程遠い集中では、残念な結果になるかもしれません。上司や師匠に叱られるかもしれません。自分の不甲斐なさに落胆することもあるかもしれません。
でも、「機械になる」ということは、感覚を捨てることです。それは好奇心や関心も捨ててしまうことになるのです。
そうなったら、世界はどうなるでしょう? 感動も驚きもなくなってしまいます。
失敗や挫折もあるけど、驚嘆や共感もあるのが、人間の世界。集中していても、世界を遮断してはいけません。「世界と触れ合いながら集中する」、ここが肝になります。「処理速度」とか「生産量」が基準となるような仕事なんて、いずれ機械がやってくれるでしょう。こんな問題が「問題にならない」ような集中、それがわたしたち本来の集中なのです。