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「ChatGPTのおかげで人間のもつ可能性がクリアになった」文化人類学者が考えるAI時代の “対話” とは【小西公大】

写真:PIXTA

 

Q. ねえ、Chat-GPT。僕は誰だと思う?

A. おっしゃっている限りでは、あなたが「僕」として自己を表現していることから、私はあなたが個別の人間であると仮定しています。ただし、私はあくまでテキストベースのAIであり、あなたの背景や個人的な情報を知ることはできません。したがって、あなたが具体的に誰であるかを特定することはできません。もし私が誤解している場合や他の質問があれば、お知らせください。

 

 「対話型」のAIとされたこの真摯な姿勢のプログラムは、いまここで問いかける「僕」を認識することができない。だから、上記の質問は、とても意地が悪い。できないだろう?と問いかけて、「できない」とうなだれて回答するその存在に、なんだか切ない気持ちになる。

 人間だって、「僕」は誰なのか、「君」は誰なのか、よくわからない。だからこそ、知ろうとする。完全なる理解などというものはとうに諦めていても、知りたいという好奇心に突き動かされ、「僕」はあいも変わらず「君」と対話し、「君」と経験を共有し、「君」の一挙手一投足に注意を払い、「君」と「僕」との違いにハッとさせられ、「君」とつながったような気がして、そして「君」と「僕」との間に「愛」が存在しているかのように感じる。

 だから、僕は「僕は誰だ?」と問いかけた時、Chat-GPTには、「君はどんな人なの?」と聞き返して欲しかった。それが、「愛」に向けた最初の一歩だから。でも彼(彼女?)は、「できない」と答えるしかできなかった。関係構築の一番最初のボタンを、かけることすらできなかった。対話ができないということは、関係を構築できないということだ。繋がることも、心を交わすことも、喧嘩をすることも、笑い合うことも、もらい泣きすることもできない。その愕然とする事実に、「対話型」AIは、寂しそうに文章をモニターに映し出す。「君とはつながれないんだ」と言っているかのように。

 さて、文化人類学とChat-GPTについて何か書いてくれと言われて、僕が思いついたのは、「対話」だった。対話は、情報や知識の交換だけで成り立っているわけではない。そこには身振り・手振り、表情や声のトーンなどの非言語的な情報が相手に与えるメッセージに強烈な影響を与えているし、何より言葉の背景に蠢いている「コンテクスト=文脈」が力を持っている。

 「愛してるよ」

という言葉が、ステージの上のアイドルから投げかけられたものなのか、母が泣きじゃくる子どもを抱きしめながら発した言葉なのか、美しい夜景を背景に結婚指輪と共にパートナーから告げられたものなのか、浮気癖のある夫にニヤけた顔で伝えられたものなのか、などによって、全く違う形で溢れ出てくる物語が創造されていく。

 僕らは、単純な言葉のやり取りの背景に、あまりに複雑で複層的な現実(歴史、習慣、文化、服装、匂い、関係のあり方など)を同時に感じながら、「君」の発したメッセージを瞬時に理解しようと、もがく。時にそれは失敗し、時にそれなりに正確に引き受けることができたような気がする。その失敗と成功をめぐる物語が、関係を生み出していくのだ。それは意味でもあるし意思でもある。命令かもしれないし、告白かもしれないし、ただの感想かもしれない。

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小西公大

こにし こうだい

文化人類学者

東京学芸大学 人文社会科学系 教育学部 准教授 1975年生まれ、千葉県出身。博士(社会人類学)。東京大学、東京外国語大学での研究職を経て、2015年より現職。現在は社会人類学的な知見を基盤として、音楽・芸能やアート手法を用いた社会的ネットワークの構築や地域開発の可能性に関する研究と実践に勤しんでいる。フィールドも、インドとともに日本の島嶼部に広がっている。主な著作は『人類学者たちのフィールド教育:自己変容に向けた学びのデザイン』『萌える人類学者』『フィールド写真術』(共著)など。

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