「安倍晋三は保守だった」といまだに誤解している情弱作家【適菜収】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「安倍晋三は保守だった」といまだに誤解している情弱作家【適菜収】

【隔週連載】だから何度も言ったのに 第41回


「保守」という言葉が歪曲されたまま安易に使われている。その代表例が、自称保守の安倍晋三だった。その周辺は、百田尚樹をはじめとするエセウヨ、ビジウヨの類のいかがわしい連中が固めていた。日本を破壊する勢力としては、維新も同類だ。猪瀬直樹、藤巻健太、梅村みずほ……。世の中をなめきった議員が集結した維新の腐敗はとどまるところを知らない。近著『日本をダメにした新B層の研究で近代大衆社会の末路を鋭く分析した適菜収氏の「だから何度も言ったのに」連載第41回。


百田尚樹

 

■吉田松陰と安倍晋三

 

 菅義偉がBSよしもとのニュースショー「ワシんとこ・ポスト」にスペシャルゲストとして登場し、自らが推進した地方創生政策を振り返ったという。収録には新喜劇で使用したうどんの屋台セットを設置。菅は「地方を大事にしている吉本さんらしい」と持ち上げたという。嫌な世の中になりましたね。

 *

 ネトウヨライターの百田尚樹が「保守政党」を結成すると言い出した。LGBT法案が成立すれば社会の根幹をなす家庭や、皇室制度が崩壊し、日本が徹底的に破壊される恐れがあり、同法案を推進する岸田文雄率いる自民党はもはや支持できないとのこと。「安倍氏が亡くなってから、自民党は音を立てて崩れ、保守政党ではないことが明らかになった」だって。

    *

 そもそも安倍が日本を徹底的に破壊したんじゃないか。

 バカなんですかね?

 バカなんだろうけど。

 安倍が保守とか一体なんの冗談なんですかね?

 安倍は自身のウェブサイトで「闘う保守政治家」などと自称していたが、「保守主義」を理解していた形跡はない。安倍とその周辺は反日のエセ保守である。それを支えてきたのは、新自由主義勢力と政商、統一教会などのカルト、マルチ商法や反社の複合体であり、いかがわしいメディアに洗脳されたネトウヨなどの情報弱者である。成蹊大学の元学長で国際政治学者の宇野重昭は《彼の保守主義は、本当の保守主義ではない》と言う。

 《安倍くんは保守主義を主張している。それはそれでいい。ただ、思想史でも勉強してから言うならまだいいが、大学時代、そんな勉強はしていなかった》《安倍くんには政治家としての地位が上がれば、もっと幅広い知識や思想を磨いて、反対派の意見を聞き、議論を戦わせて軌道修正すべきところは修正するという柔軟性を持って欲しいと願っている》(『安倍晋三 沈黙の仮面』)

 安倍は「保守がイズムであるかどうかということは、さまざまな議論があるところ」などと言っていたが、もちろん「さまざまな議論」など存在しない。あらゆる思想家が指摘するように、保守主義は思想体系でもイデオロギーでもない。「主義」とついてはいるものの、逆に「主義」を否定する態度のことである。

「人間理性に懐疑的であるのが保守」である。右翼、復古主義、国家主義、排外主義、軍国主義、新自由主義といったものとは1ミリも関係ない。

 保守は抽象を警戒し、現実に立脚する。人間は合理的には動かず、社会は矛盾を抱えていて当然だと考える。保守は近代啓蒙思想をそのまま現実社会に組み込むことを否定する。単純な反近代ではなく、近代の不可逆性の構造を熟知した上で、近代理念の暴走を警戒する。

 保守が伝統を重視するのは過去を美化するためではなく、合理や理性では捉えきれないものが、そこに付随すると考えるからだ。人間の行動には情念や慣習が大きく関与している。人間はゼロから生まれるわけではなくて、環境の中に生まれる。理性的に考えれば、理性により決着できないことのほうが多いことに気づく。合理的に考えれば、合理が通用しない領域があることがわかる。そこで反合理になるのではなく、合理に一定の効用を認めておく。それを判断するのは常識である。そこには偏見や迷信も含まれるかもしれない。しかし、それを理性や合理によって切り捨ててしまうと、同時に大切なものを失ってしまうと保守は感知する。保守は理想を提示しない。逆に理想が凶器になることを繰り返し説く。

 よって、保守は漸進主義になる。すべてに適応できる公式を持たないので、ゆっくりと慎重に判断をする。一貫した「イズム」がないのだから当然だ。

    *

次のページ安倍はすべてにおいて保守の対極にある人物だった

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日本をダメにした 新B層の研究

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  • 目次

はじめに−−「B層」とは何か?

✳︎

第一章 内田樹と『日本辺境論』

辺境と偏狭

プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神

B層グルメと某評論家

B層という言葉が出てきた経緯

なぜ日本はこんなことになってしまったのか

ルース・ベネディクトの『菊と刀』

安倍晋三の行動原理

学問のブレイクスルー

マイケル・ポランニーと暗黙知

百人一首を暗記する意味

「型」を知るということの贅沢

 ✳︎

第二章 自立を拒絶する人たち

白井聡の『永続敗戦論』

終戦記念日という欺瞞

冗談は櫻井よしこさん

「サヨク」と「保守」の自己欺瞞

「主権の欲求不満」の解消

 ✳︎

第三章 「正義」を笠に着る人たち

ウクライナ首都の名称変更は「正義」なのか?

「人間は見たいものしか見ない」

社会的リンチというB層の「正義」

人種問題における「正義」の暴走

「ルッキズム」批判は「正義」なのか?

言葉狩りは「正義」なのか?

若年層に選挙権を与えるのは「正義」なのか?

山本太郎と「正義感」について

 ✳︎

第四章 陰謀論に走る人たち 

「無知の知」と「無恥の恥」

不道徳としか言えない果物屋

「維新に殺される」

新型コロナは「バカ発見器」でもあった

ひっくり返って駄々をこねる老人たち

Yahoo!ニュースのコメント欄

知識はあるけど教養がないバカ

デマは言論の自由にあらず

社会の変化は元には戻らない

99%の人が知らない話

✳︎ 

第五章 無責任な人たち

安倍の次は維新に騙されるB層

メディアの劣化が止まらない

大阪都構想のデマと事実隠蔽

総選挙で湧いてきたB層

✳︎ 

第六章 恥知らずな人たち

飼い犬の遠吠え

安倍晋三の本質を映し出す一枚

ツッコミ待ち政治家だらけの国

日本の崩壊に気づいていないB層

日本最大の権力者は「改革バカ」

「ジューシー」発言は外部の拒絶

悪意なく嘘を重ねる人々

カルト化した自民党広報本部

百田尚樹の「歴史改ざんファンタジー」

日本人は悪に屈したネトウヨ用語を使い騒ぎ出した元首相

✳︎ 

おわりに−−人間は過去を忘れ野蛮は繰り返される

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適菜 収

てきな おさむ

1975年山梨県生まれ。作家。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?」(以上、講談社+α新書)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志との共著『思想の免疫力 賢者はいかにして危機を乗り越えたか』、『遅読術』、『安倍でもわかる政治思想入門』、『日本をダメにした新B層の研究』(KKベストセラーズ)、『ニッポンを蝕む全体主義』『安倍晋三の正体』(祥伝社新書)など著書50冊以上。「適菜収のメールマガジン」も好評。https://foomii.com/00171

 

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