頑張ることは呼吸と同じくらい当たり前にするべきこと。【神野藍】第8回
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第8回
【「誰のために頑張るか」が曖昧になり始めていた】
少し小賢しく成長してしまったのかもしれない。中学校に進学するぐらいには色々なことに気がついた。勉強はやった分だけ点数や偏差値として反映されるし、部活だって練習した分だけ強くなれる。先生も人間なのだから、良い生徒であるほうが何事も優遇される。やらない意味の方が分からなかった。「やれ」と強制されることは一度もなかったが、そうやって得られるすべてを得ようとした。県内で一位になった模試の結果や大会の表彰状、その他色々な功績を家に持ち帰ったが、家の中で昔から輝いていたものたちに比べると、それは凄く純度の低い鉛色のものに見えてしまった。
高校受験は順調だった。私が選んだ学校は数年前に兄が受験に落ちたところで、そこにいともたやすく、人よりも早く決まった。ただ同時期に兄が大学受験を控えていて、家の雰囲気はかなりひりついており、誰も手放しに喜んではくれなかった。「私が順調すぎるのも良くないんだな」と薄々感づいてしまった。これは数年たって分かったことだが、きっとそのころはまだ「女は男よりも出しゃばっちゃいけなかった」のだろう。
それ以降もこれまでと同じような道を歩んだ。しかし、これまでとは少し違っていて、家族の関心の中心は兄ではなくて、私に移ったような気がしていた。それは兄が成人に達し、親の手を離れたのが大きな理由で、私自身に何か理由があったわけではない。
両親は私に一心の愛情を注いでくれた。きっとそれを真正面から受け取れなかったのには私の方に問題があったのかもしれない。頑張って何か功績をあげたところで、ずっと砂の城を作らされているような感覚を味わっていた。手ごたえはあるのに、私の中では実を結んでいないような気さえしていた。
すぐ渇く。すぐ飢える。
そのころには誰のために頑張るかの境目がさらに曖昧になり始めていた。