頑張ることは呼吸と同じくらい当たり前にするべきこと。【神野藍】第8回
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第8回
【 AV女優になるという選択肢が救いのように見えた】
季節が秋にさしかかったころ、働いていた会社が親会社に完全に吸収されることになり、親しい人たちが辞め始めた。私としても働き方が大きく変わってしまうため、同じように会社を辞める選択をとった。次にやることは決まっていなかったが、何か目の前に丁度よく転がってきたら、それを頑張ろうと思っていたし、今までもそんな感じでやってきていたので、「すぐに何か見つかる」ぐらいの心持ちであった。
きっと今までは目の前に転がってきたものが、世間的にみて「善」なのか「悪」なのかの判断が上手くついていたのだと思う。だからこそ、誰が見ても「良いことをやっている」と見えていたし、そう評価されてきた。今回もこれまでと同じように選び取ればいいだけの話だ。
しかしながら、きっと夏の一件で、自分の中に歪みが生じていたのだろう。あの頃の自分の中に起こっている事態について落ち着いて見つめることはできなかったし、そうできたとしても拒否していたのだと思う。目の前に現れる選択肢を善悪ではなく、単純な面白さだけで一つ一つ選んでいった。周りの目とか評価とかそんなものはどうでもよくなって、そうやっていくうちに内に抱える歪みはどんどん大きくなっていった。そうやって沈んでいく中で、AV女優になるという選択肢が救いのように見えたのだ。
(第9回へつづく)
文:神野藍
※毎週金曜日、午前8時に配信予定