VUCA時代の転職調査で見えた生きづらさ 「自分の将来がわからないこと」に耐えられない人たち【大竹稽】
大竹稽「脱力の哲学」3 〜「VUCAの時代の集中力」〜
東大理三に入学するも現代医学に疑問に抱き退学、文転し再び東大に入る。東大大学院博士課程退学後はフランス思想を研究しながら、禅の実践を始め、現在「てらてつ(お寺で哲学する)」を主宰する異色の哲学者・大竹稽氏。深く迷い、紆余曲折しながら生きることを全肯定する氏が、VUCA時代に求められている集中力の正体とは何かを語る。
パーソルキャリア株式会社が運営する転職サービス「doda」は、先月の6月14日、「新卒入社直後のdoda登録動向」を発表しました。この調査は、2011年に開始され、以後、継続的に発表されているものです。「入社直後」というところがポイントでしょう。「そのタイミングでなぜ?」「そもそもなぜ入社したの?」という疑問も自ずと生まれてしまいますが、2023年の登録者数は、過去最多。調査を開始した2011年と比べると約30倍になっているようです。
専門家の分析によれば、この激増の背景には、「終身雇用制度の崩壊」や「働き方改革の推進」と、いまだに傷が癒えない新型コロナウイルス感染症による経済への打撃があるようです。このような背景によって、若者たちは「働くことの意味や価値」や「仕事そのもの」について考えざるを得なくなったのでしょう。その動きがこのような「新卒入社直後の転職希望者数」として顕在化したようです。
さらに、いわゆる「Z世代」に属する若者たちは、これまでの世代に比べて「自分らしさ」を重視し、自ら望む仕事をし、自らにふさわしいキャリアを作っていきたいという思いがあるようです。
ということは、この若者たちは、「新卒時に入社した会社では、自分にふさわしい仕事は与えられず、自分にふさわしいキャリアを作ることはできない」と断定したことになります。
さて、ここで問題が二つあります。
まず一つ目は、「働くことの意味や価値」や「仕事そのもの」について考えざるを得なかったという点です。確かに考えることは、人間にとって欠かせないアクションです。しかし、それをしっかり意味あるものにするためには、まず働かなればなりません。三年くらいガムシャラに仕事をして、そこでようやく考えるネタが蓄えられるはずです。
もう一つが、「自分にふさわしいキャリア」です。これは、一体、何年先までのキャリアなのでしょう? スタートしてすぐに、その道が間違っていると、なぜ判断できるのでしょう?
もっとも重要な問題は「自分らしさ」です。新卒の若者たちが、いつ、どの段階で、どのような体験をして「自分らしさ」を把握できたのでしょうか?
経済の専門家たちは、「終身雇用制度の崩壊」「働き方改革の推進」「新型コロナウイルスによる経済破綻」をこの動向の背景として説明しています。確かに、そのような理由によって説明することもできるでしょうが、わたしは別のところに根本的な原因を認めます。
「自分にふさわしいキャリア」なるものが示す大事な要素が二つあります。「未来」と「自分」です。
そして、若者たちは、この二つがはっきりと、その若さで既に「わかっている」と思い込んでいるようです。だから、スタート地点で早くも、未来が「わかる」し、その未来と自分が不適合であることが「わかる」のです。
この発表からわたしが読み取ったのは、「わかる」ものでないと動けないという、若者たちの精神的脆弱さです。