VUCA時代の転職調査で見えた生きづらさ 「自分の将来がわからないこと」に耐えられない人たち【大竹稽】
大竹稽「脱力の哲学」3 〜「VUCAの時代の集中力」〜
◼️AIの思考とわたしたち人間の思考
さいわいにも、単純明快で誰にでも「わかる」問題は、機械に任せられるようになりました。人間の世界の本質は、「変わりやすい(Volatility)」「不確実(Uncertainty)」「複雑(Complexity)」「あいまい(Ambiguity)」(つまりVUCA)のほうにあるのです。
ドイツの社会心理学者、哲学者のエーリッヒ・フロム。彼の主著である『自由からの逃走』に、こんな一文があります。
「近代社会において、個人が自動機械になったことは、一般の人々の無力と不安を増大した。そのために、彼は安定を与え、疑いから救ってくれるような新しい権威に、たやすく従属しようとしている」
AIの思考とわたしたち人間の思考を比べて見ましょう。AIは、答えを出すにおいては人間よりも格段に優れています。しかし、答えを出すに足る情報が不足している次元では、彼らは答えを出せないままになるでしょう。「その先に進むための情報が不足しています」と逃げられるだけです。
しかし、わたしたち人間は、「わからない」ところに進むことができるのです。むしろ、自動機械に蹂躙されないためには、「わからない」ところで勝負するしかありません。そして、「わからない」ところで、わたしたち人間の自由が証明されるのです。
ところで、「親ガチャ」なる言葉が流行しています。そこから敷衍して、入社するまで配属先が分からない状況を、「配属ガチャ」という言葉で不安がる若者たちも出ています。
この「○○ガチャ」も、「わかる依存症」が生んだ流行ですね。
そもそも、出てくるものが「わからない」し、「わからない」ことが楽しいから、「ガチャガチャ」をするのです。にもかかわらず、思い通りのものが出ない、見栄えがするもの、値段が高いものが出ないからといって、ガチャガチャに不満をぶつけるのは、お門違いです。
ミヒャエル・エンデというドイツの作家がいます。『モモ』や『果てしない物語(映画化タイトルは「ネバーエンディング・ストーリー」)』で有名ですね。エンデはたくさんの短編を発表していますが、その一つに『自由の牢獄』があります。
主人公インシアッラーは、智慧者で知られる盲目の乞食。この物語は彼の体験談です。
大富豪として成功していたインシアッラーは、ある日、悪魔の化身である美女に誘われ、不思議な部屋に閉じ込められてしまいます。
そこは百十一の扉がある部屋だった。扉には全く違いがありません。そして悪魔の声が聞こえてくる。彼は自らを「自由の精」と呼んでいます。
「一つを選べ。どの扉にも鍵はかかっていない。だが一つ選んだ瞬間に、全ては閉ざされる」
無造作に一つの扉を選ぼうとするインシアッラー。が、ここで悪魔が問いかけてくる。
「なぜそれを選ぶ?」
インシアッラーは答える。
「なぜいけないのだ? 扉が同じならどの扉から出ても同じだろう」
悪魔が答える。