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ワグネル反乱と「現実の解体」【佐藤健志】

佐藤健志の「令和の真相」49

ウラジミール・プーチン

 

◆事態の本質は「何でもあり」だ

 このような形で整理すると、見えづらくなる点がある。

 筋道がまるで立たないこと、いわゆる「何でもあり」こそ、ワグネル反乱の本質のように思われるのです。

 

 反乱そのものが、プーチンもひそかに関与した芝居、すなわちフェイクだったのではないかとする分析まであるほど。

 『フォーブス』の記事をどうぞ

 

 【今回の事態が歌舞伎のごとく演出されたものだったとして、ロシアではこの手の現実歪曲は決して新しいものではなく、帝政時代にまでさかのぼって存在することを念頭に置いてほしい。(中略)

 【ワグネルが(注:モスクワに向けて)北上しているとなれば、阻止しようとする動きが見られて当然だろう。たとえば、高速道路を埋め尽くした部隊の車輌を徹底的に爆撃するとか。が、それが起こらない。かわりにプーチンが反乱を糾弾する演説をする。すると、トルコ逃亡説までささやかれていたベラルーシの独裁者ルカシェンコが、プリゴジンに電話をかけたらしい。進軍をやめろ、そうすればこちらで平穏無事に生きられるぞ、と。プリゴジンは提案を受け入れ、反乱の途中で数千人もの部下を見捨てる。何とも説得力のない展開だ。】

 (元の英語記事より拙訳。このため日本語版の記事とは文章が異なる。以下同じ)

 

 なるほど、ここまでは一理ある。

 土壇場で計画が変更されたとはいえ、ロシア連邦保安庁はプリゴジンの動きを察知していたのですぞ。

 ついでにプーチンも、ウクライナで勝利を収められないショイグやゲラシモフに不満を抱いていたと伝えられます。

 

 だがワグネル反乱がフェイクだったのなら、目的は何だったのか?

 記事の筆者メリク・カイランは、答えを提示できていません。

 これまた説得力のない展開であります。

 

 他方、ドイツのオーラフ・ショルツ首相は、反乱によってプーチンが「弱体化させられたと強く信じている」と発言。

 プリゴジンの行動が、ロシアの「独裁体制、権力構造に亀裂を生じさせ(た)」ためというのですが、ならばプーチン失脚も近いのか?

 ショルツ首相いわく。

 

 【(プーチンが)どのくらい権力の座に居続けるのかは推測したくない。長いかもしれないし、短いかもしれない。われわれには分からない】(カッコは引用者。以下同じ)

 

 おいおい、だったら弱体化したかどうかも分からないだろうに。

 ならば今回の反乱が、ウクライナ戦争に与える影響は?

 

 【(和平交渉が)容易になったのか、難しくなったのかは分からない

 

 もっと真面目にやれ!

 ・・・そう言いたくなるところですが、ショルツがこんな反応をするのにも相応の理由がある。

 ワグネル反乱をめぐる「何でもあり」は、恐ろしく根が深いのです。

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佐藤 健志

さとう けんじ

佐藤健志(さとう・けんじ)
 1966年、東京生まれ。評論家・作家。東京大学教養学部卒業。
 1989年、戯曲『ブロークン・ジャパニーズ』で、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞を当時の最年少で受賞。1990年、最初の単行本となる小説『チングー・韓国の友人』(新潮社)を刊行した。
 1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』(文藝春秋)より、作劇術の観点から時代や社会を分析する独自の評論活動を展開。これは21世紀に入り、政治、経済、歴史、思想、文化などの多角的な切り口を融合した、戦後日本、さらには近代日本の本質をめぐる体系的探求へと成熟する。
 主著に『平和主義は貧困への道』(KKベストセラーズ)、『右の売国、左の亡国 2020s ファイナルカット』(経営科学出版)、『僕たちは戦後史を知らない』(祥伝社)、『バラバラ殺人の文明論』(PHP研究所)、『夢見られた近代』(NTT出版)、『本格保守宣言』(新潮新書)など。共著に『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)、『国家のツジツマ』( VNC)、訳書に『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』( PHP研究所)、『コモン・センス 完全版』(同)がある。『[新訳]フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』は2020年12月、文庫版としてリニューアルされた(PHP文庫。解説=中野剛志氏)。
 2019年いらい、経営科学出版よりオンライン講座を配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻に続き、現在は『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻が制作されている。

 

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