たまたまマッチングアプリで知り合った人が駆け出しのホストだった・・【神野藍】第9回
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第9回
【「仕事を辞めてもずっと一緒にいようね」】
それから彼は私を繋ぎ留めておくために言葉を尽くして、マニュアル通りの「仕事を辞めてもずっと一緒にいようね」なんてことを言いながら必死に愛を囁いた。初めのうちはそういう状況も楽しんでしまっていて、徐々にお店に通う頻度や使う金額が増えていった。それに伴って仕事の出勤日も増えていき、朝から晩までなんて日もあったけれど気が病むこともなく、家に帰り、お風呂に入ることにはその日接客した人の顔なんて全て忘れていた。ただそこまで馬鹿ではないので、一か月に稼いだ額全てを使ったり、いわゆる「掛け」で飲んだりはしなかった。結局は短期的な借金のようなものだし、あまり気持ちがよくなかったので、その日飲んだ分をその日のうちに全額清算するようにしていた。
初めのうちは楽しかった。まだ二十歳でそこまで大人になりきれていなかったのもあって「そういう自分」にも陶酔していたし、何より全てが新鮮で、経験できることは経験しようと思っていた。しかしながら指名し始めて一か月半経った頃には、その男は私の全てを管理しようとしてきた。私のスケジュールや稼いだ額、メッセージのやり取りにいたるまで、全てだ。歌舞伎町ではよくある手法ではあるが、そうやって少しずつ窮屈な関係に押し込められていくうちにだんだん息苦しさを感じるようになった。
ただ、「期待されること」に弱い私にとってこの世界は丁度よく収まりすぎてて、頭の中では「そろそろこんなところから抜け出さないと」と考えつつも、現状維持というぬるま湯に浸り続けていた。