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「集中力」とは “好奇心” があれば無意識に発揮される力。大人になってようやく分かるファーブルのかっこ良さとは【大竹稽】

大竹稽「脱力の哲学」4 〜集中力の正体〜

大人になってようやく分かるファーブルのかっこ良さ

 

◾️多くの人には無価値でくだらないものが、とても魅力的に見えていたファーブル

 

 集英社から翻訳されている『ファーブル昆虫記』から冒頭を紹介しましょう。

 「あれこれ語りあいながら、クサニワトコやサンザシにふちどられた小道を行くと、そこにはすでにキンイロハナムグリが満開の繖房花の上で、苦味のありそうな芳香に酔いしれていた。これから私たちは、レ・ザングルの砂地の高台まで、見にいくところだったのである–––スカラベ・サクレがすでに姿を現しているかどうか。そうして古代エジプトにおいては世界の象徴であった糞球を転がしているかどうか」

 ご覧の通り、ファーブルにとっての世界は、これほどまでに広く、彩り鮮やかなものだったのです。「虫の観察」に集中するファーブル。はたして、ファーブルにはどんな「集中力」が備わっていたのでしょうか?

 「虫」を手がかりにしましょう。

 まず、虫はどこにでもいます。現代の都会はいざ知らず、ファーブルにとっては身近にどこにでもいるものでした。

 この「どこにでもいる(ある)」が重要です。目立たないものには、なかなか、わたしたちの意識は向きません。だれだって、珍しくてキラキラ輝くものに意識が向きます。いっぽうで、道に落ちている石塊など、たいていの人には、視界に入っていたとしても見えていません。目に留まっていても、意識には留まっていないのです。

 意識というものは、外部からの刺激に反応し、動き始めます。だから、刺激を待つような姿勢もありえます。「義務感」や「切迫感」も、刺激の一種です。しかし、ファーブルの昆虫観察はこのような「待ち」の集中ではありません。ここに「好奇心」が働くのです。

 ポイントが二つあります。

 まず、彼は多くの人が見逃してしまうことに集中していた。多くの人には無価値でくだらないものが、とても魅力的に見えていた。これこそ「好奇心」のパワーです。そしてファーブルは自らの「好奇心」に素直だったのです。

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    大竹稽

    おおたけ けい

    教育者、哲学者

    株式会社禅鯤館 代表取締役
    産経子供ニュース編集顧問

     

    1970年愛知県生まれ。1989年名古屋大学医学部入学・退学。1990年慶應義塾大学医学部入学・退学。1991年には東京大学理科三類に入学するも、医学に疑問を感じ退学。2007年学習院大学フランス語圏文化学科入学・首席卒業。その後、私塾を始める。現場で授かった問題を練磨するために、再び東大に入学し、2011年東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修士課程入学・修士課程修了(学術修士)。その後、博士後期課程入学・中退。博士課程退学後はフランス思想を研究しながら、禅の実践を始め、共生問題と死の問題に挑んでいる。

     

    専門はサルトル、ガブリエル・マルセルら実存の思想家、モンテーニュやパスカルらのモラリスト。2015年に東京港区三田の龍源寺で「てらてつ(お寺で哲学する)」を開始。現在は、てらてつ活動を全国に展開している。小学生からお年寄りまで老若男女が一堂に会して、肩書き不問の対話ができる場として好評を博している。著書に『哲学者に学ぶ、問題解決のための視点のカタログ』(共著:中央経済社)、『60分でわかるカミュのペスト』(あさ出版)、『自分で考える力を育てる10歳からのこども哲学 ツッコミ!日本むかし話(自由国民社)など。編訳書に『超訳モンテーニュ 中庸の教え』『賢者の智慧の書』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)など。僧侶と共同で作った本として『つながる仏教』(ポプラ社)、『めんどうな心が楽になる』(牧野出版)など。哲学の活動は、三田や鎌倉での哲学教室(てらてつ)、教育者としての活動は学習塾(思考塾)や、三田や鎌倉での作文教室(作文堂)。

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