AV女優デビュー直前、ひどい執着心を持った男との関係を精算したいと思っていた【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第10回
早稲田大学在学中にAV女優「渡辺まお」としてデビュー。人気を一世風靡するも、大学卒業とともに現役を引退。その後、文筆家・タレント「神野藍」として活動し、注目されている。AV女優「渡辺まお」時代の「私」を、神野藍がしずかにほどきはじめる。「どうか私から目をそらさないでいてほしい・・・」連載第10回。
【私の温情の上に胡坐をかいていた男】
AV女優なると決めてから、とんとん拍子に事は運んだ。事務所の面接を受け、その後はメーカーの面接、そして契約が決まった。勧められて入った事務所だったが、担当してくれたマネージャーがかなり優秀で、これといって強みがない−−例えば肩書とか分かりやすい身体的な特徴がない状態であったのに、かなり良い条件で話をまとめてくれた。
女優になることが現実となり、新しい挑戦に対して「どんな未来が待ち受けているのだろうか」と私の心は弾んでいた。しかしながら、撮影やリリースに向けて何度か打ち合わせをしていくうちに、目の当たりにしたのはキラキラとした輝かしい世界ではなく、業界の内情やそこで活躍していく厳しさであった。「デビューさえすれば売れる」なんて幻想で、常に数字という結果だけが全て。メーカーや事務所が手厚くフォローするのは「売れる女の子」であって、全員に対して平等なんてことはない。「何となく頑張る」では通用しない。そう気がついたとき、私の中でめらめらと炎が立ち上がり、くすぶっていた感情を焼き尽くした。「ああ、全部やめよう。活躍するために無駄なことをやっている暇はない」と結論が出せたのだ。そうと決まれば、未来のためにやらなければいけない清算を行うだけだ。
慢心を重ね、私の温情の上に胡坐をかいていた男。一時期は新しい世界の刺激を恋と混同していたこともあったが、今となっては無用の存在だ。縁を切るのにあたり、問題が一点あった。男はひどい執着心の持ち主であった。前に親友に縁を切られて音信不通になったときにどこまでも追いかけ続けたなんてエピソードを聞いていたこともあって、何かしらのトラブルが起きるのは覚悟していた。ただでさえ、少し前に友人の付き合いで他の店に2時間飲みに行っただけで、歌舞伎町の路上で激昂してくるような人だ。加えて言い争う最中に爪が二本ほど折れたが、もし面と向かって「あなたと一緒にいるのをやめる」なんて話したら、それだけでは済まないことは容易に想像がついた。時間が多少かかったとしても、なるべく静かにフェードアウトしようと決めた。
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