AV女優デビュー直前、ひどい執着心を持った男との関係を精算したいと思っていた【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第10回
【「俺を裏切ったことを後悔させてやるから。覚えてろよ。」】
まず会う頻度を減らした。これは凄く簡単で、適当に仕事が忙しいとでも言っておけば何の疑いも持たれなかった。ちょうど数か月先のバースデーについての口約束をしていたのもあって、彼は「そのためだろう」なんて思っていたのだと思う。
その次に彼にとって心地よく感じるような都合の良い言葉を吐くことを辞めた。連絡するのも最低限。そこまでいくと、幸か不幸か何かを察して、「今までは辞めたらって言ってたけれど、気が変わった。俺と付き合ってほしいんだ。」なんて言い始め、機嫌を取ろうとしてきた。でも、そんな戯言に惑わされるような私はとっくに消え失せていた。
3月の末。最終的に全ての連絡先をブロックした途端に、彼が知らないと思っていた私の匿名のSNSのアカウントに、
「一生をかけて、俺を裏切ったことを後悔させてやるから。覚えてろよ。」
文字の一つ一つから怨念が滲み出ているような、何度もスクロールしないといけないほどのメッセージが届いた。いったい何をしてくるのだろうかと不安にはなったが、所詮口だけで何も実行しない弱い人だ。私に面と向かって危害を加えるようなことはしないだろうと踏んでいた。
結局、私がデビューする前に、色々な掲示板でありもしないことを吹聴して、個人情報をまき散らしていたのは彼なのかもしれない。その時期に私の本名や大学名、所属事務所、芸名を知っていたのはその人だけであったから。もう二度とお互いの人生に絡み合いたくもないので、詳しいことは調べていないが、私の悪い予感程度で済んでくれることを願いたい。
数年後に駅で見かけたときに、その当時のことが色々とフラッシュバックした。彼がまとっている雰囲気は以前と変わっていなかった。今も色々なものが渦巻くあの街で、同じように愛を囁いているのだろう。一度は同じ時間を過ごした相手だ、未練が残っていたらどうしようなんて思ったが、残っていたのは驚きとほんの少しの恐怖心だけであった。
過去の出来事をちゃんと「過去」として向き合うことができている。
私はちゃんと前に進めているんだ。悪い時間じゃなかったが、私がいる場所はもうあそこじゃない。
(第11回へつづく)
文:神野藍
※毎週金曜日、午前8時に配信予定
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