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愛されなくても、幸せになれる

―アドラー心理学とその弟子フランクルの心理学の教え―

愛されなくても、幸せになれる

幸せになれる人は、過去のトラウマと決別することを自己選択できる人です。これで人生の選択は大きく分かれていくのです。

 過去と未来についても、人間は無意識のうちに「選択」を行っています。

 まず、過去について。カウンセリングでは、相談に来られる方が自分の過去について、「親から愛されなかった私」というストーリーで語ることがとても多いのです。女性のカウンセリングで一番多いのが、愛着障害やアダルトチルドレン、毒母といったキーワードで、「母から愛されなかったから、不幸にしかなれなかった私」という人生の物語を語るクライアントの方が多いのです。若い方だけではなくて、50過ぎても、未だに過去へのこだわりからの解放されない。「あの母に育てられたせいで、自分はどうやれば幸せになれるかわからない」と語るのです。

母から愛されないってことは事実かもしれません。けれども、その過去に対する「態度」、「愛されなかった過去」という事実に対してどういう態度を選び取るかは、本人の自己選択です。トラウマの犠牲者となって、自分の人生をトラウマティックに語る方は、「母から愛されなかった私は幸せになれない」というパターンを、無意識のうちに選び取っているのです。

 

本気で幸せになろうとすることは、大きなリスクです。本気で幸せになることを選び取っても幸せになれなかったら、傷ついてしまうからです。「母のせいで幸せになれない」という、トラウマの犠牲者としての私を、自分の過去に対して、無意識のうちに選び取っている。その間は、その人は、本当には傷つくことを回避できるのです。「トラウマの犠牲者」であり続ける選択は、楽な道を選ぶことです。

 けれども、一方で、母から愛されなくても、同じように幸せになることができている人はたくさんいます。トラウマティックな過去に、そして「トラウマの犠牲者としての自分」に別れを告げることができている人です。

 幸せになれる人は、過去のトラウマと決別することを自己選択できる人です。これで人生の選択は大きく分かれていくのです。

 自分は無意識のうちに、どんな選択を行ってきたのか。それに気づくこと。そして、気づいたらその人生パターンに別れを告げて、新たな人生を選び直すことです。意識的、自覚的に、新たに自分の人生を選び直すこと。これが、人生を変える唯一の方法だと、アドラーとフランクルの人生の再選択理論は教えてくれるのです。

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諸富 祥彦

もろとみ よしひこ

明治大学文学部教授

1962年、福岡生まれ。筑波大学、同大学院博士課程修了。千葉大学教育学部助教授を経て、現在、明治大学文学部教授。教育学博士。日本トランスパーソナル学会会長、日本カウンセリング学会理事、臨床心理士。著書に『知の教科書 フランクル』(講談社選書メチエ)、『ビクトール・フランクル 絶望の果てに光がある』(小社刊)、『フランクル「夜と霧」』(NHK 100分de名著)などがある。HP:http://morotomi.net


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