日本人の20人に1人は「隠れアスペ」!? 見過ごされがちなグレーゾーンの悩み【吉濱ツトム】
「隠れアスペ」はなぜ気づかれないのか?
発達障害に関するカウンセリングを行いながら、自らもアスペレガーであることを公言する著者による、日本のアスペルガー症候群のグレーゾーンに関する現状解説をお届けする。『隠れアスペルガーという才能《新装増補版》』から抜粋。
◾️一度に2つ以上のことを同時にできない・・
一度に2つ以上のことを同時にできない。人に対して異常に緊張する。人の言葉の裏を読めない。ちょっとしたことでパニックを起こしてしまう……こういったアスペルガー症候群の症状をもつ、一見普通の「隠れアスペ」の人たち。
これらはほんの一例で、アスペにはまだまだ多様な症状があります。しかし、「隠れアスペルガー人」は、これらの症状が障害であることに、なかなか気づくことができません。本人だけでなく、周囲も「ちょっと変わった人だな」と思うだけで、発達障害などとは思いもよらないことが多い。それが、本書で隠れアスペを「隠れ」と呼ぶゆえんです。
一方、アスペルガーの特徴のほぼすべてに当てはまり、かつ症状の出方が極端な人は「隠れ」ではない正真正銘のアスペルガー、本書でいう「真性アスペ」です。このアスペルガー症候群の診断基準に当てはまる人たちは、アスペ全体のごく一部。実際は、診断基準を満たさないのにアスペの症状に苦しめられている、グレーゾーンに位置する人々のほうがはるかに多いのです。
◾️見過ごしてはならない「隠れアスペ」の悩み
アスペルガー症候群は、教科書どおりにいえば90人から100人に1人の割合で存在します。それに対して、グレーゾーンに位置するアスペの人は、文部科学省発表の数字からの推計や、『ガイドブック アスペルガー症候群――親と専門家のために』(トニー・アトウッド著、東京書籍、1999年)などによると、日本人の40〜50人に1人くらいとされています。
でも、僕の実感としては、20人に1人くらいはいるように思います。発達障害の一種、ADHD(注意欠陥・多動性障害)も、診断がつくのは40人に1人ですが、軽度のADHDなら10人に1人くらいはいるといわれています。
隠れアスペが20人に1人というのは、さすがに言いすぎかもしれません。しかし、40~50人に1人というのは、相当症状が出ている人に絞り込んだ数字です。この絞り込んだ数字を採用したとしても、日本全体で約300万もの人がアスペの症状に苦しんでいる計算になります。これは、国としても見過ごせない大問題ではないでしょうか?
アスペルガーのグレーゾーンについては、これまでメディアではほとんど触れられていませんでした。しかし、僕の知っている発達障害の専門医の何人かは、「確かにアスペにはグレーな存在がいる」と認めています。そして実際、僕のセッションを受けに来られる発達障害の方の8割は、アスペルガーの診断基準には該当しないけれど、明らかにアスペの症状に苦しんでいます。
人数の多さという点では、「隠れアスペ」は真性アスペをしのぐ深刻な問題といえるでしょう。だから僕は、訴えたいのです。隠れアスペの人たちの苦しみを見過ごしてはならない。隠れアスペこそ、最優先で改善に取り組むべき層だ、と。