お金が手に入る? 人気者になれる? AV女優という職業は楽園への入り口に見えるが、出口は何もない荒野だ【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第15回
【社会はAV女優に対して寛容的か?】
社会というものはもっと柔軟で変化しやすいものだと思っていたが、それは大きな間違いであった。
自分に対して友好的な世界を一歩外に出てみると、AV女優に対して、性産業そのものに対して、偏見やそれなりにマイナスの感情を抱く人間はまだまだ多く存在する。多く存在するというよりも、そういった人たちの方が大多数だ。
それは当たり前のことである。長い時間蓄積されてきたイメージをここ数年で一気に消し去ることは不可能であるし、そもそもAV女優の活躍が耳に入るのもごく一部の層だけなのかもしれない。色々な情報が飛び交うSNS上ならまだしも、それにアクセスしていなければその情報すらキャッチできない可能性もある。「AV女優がキラキラ輝いていて、憧れの人になっている」というのはこの世界のほんの上澄みの部分を切り取っているから、そう見えるだけで現実はそう甘くはない。
きっと私に対して寛容であった人たちも友達という関係性だから気にしないだけで、「AV女優であるのが自分の家族だったら」「恋人がAV女優だった過去がある」などもっと自分に近しい存在に当てはめてみたら、その反応や考えは大きく変わるかもしれない。
世の中として「色々なものに寛容であるべき、または偏見を持たないように生きよう」といった流れがあるが、それは物事を自分事として深くまで考えておらず、「世の中の色々なことに理解のある自分」とただ外側を綺麗に取り繕うだけ、一種のブランディングみたいなものに留まりがちである。それ自体は悪いとは思わないが、真の意味での理解とは遠いのかもしれない。
冒頭で触れた話に戻るが、「キラキラしたい」とか「ちやほやされたい」という心情や承認欲求は理解できる。特に今はSNS上で他人の生活やそれを支える経済力が可視化されたために、それによっていくらでも自分と他人を比べられるようになった。おのずと求める幸せの総量は増加傾向にあるだろう。「そんなネット上で威張っても」と思うかもしれないが、人によってはそれが現実よりも現実の場合がある。
確かにAV女優になれば、承認欲求を満たしてくれるようなファンやそれなりにまとまった金額は手に入る。多くの人々が一か月で稼ぐ額を半日で稼ぐことだって可能だ。自分が手にするもの、失うもの、考えないといけないこと、そんなもの全てを天秤にかけて考えたとしても、承認欲求を得たい方に傾いてしまうのだろう。色々な要素が絡み合ってそうさせているのかもしれないが、一通り経験した身からすると物悲しい気分になってしまう。