SNSのデマや著名人の偏見にだまされないための思考法
齋藤孝さんの最新刊『使う哲学』より、日常に使える哲学の思考法を伝授します。
イドラは今も社会を覆っている
三つ目は「市場のイドラ」です。多くの人が集まる市場では、いろいろなうわさ話が飛び交います。うわさ話には、間違っているものもあるだろうし、聞き違いや伝言ミスも生じそうです。しかし、そうした話を信じる人も多く、間違った情報が拡散されていくこともあります。そうして生じた偏見や先入観が市場のイドラです。
今の世の中でも、市場のイドラは日々起きていそうです。特に問題なのは、インターネット上で起きていることです。
たとえば、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)には、不確かな情報やデマも溢れています。さらに、それらが拡大して、誰かを誹謗中傷するような事態もしばしば起きています。400年ほど前にベーコンが唱えた市場のイドラは、現代の私たちにとっても、大きな問題であるといえます。
四つ目は「劇場のイドラ」です。古代ギリシャでは、中央に代表者が立って話すことがありました。また演劇では、多くの人が見つめる中、主人公などが活躍します。私たちはそうした代表者や主人公に惹きつけられ、敬意を持つようになります。
劇場で話す人や演劇の主人公は、権威や伝統に置き換えることもできます。とすると、人は権威や伝統に弱い存在でもあるということです。
しかし、権威や伝統がいつも正しいとは限りません。間違っていることもあるのに、鵜呑みにして、偏見や先入観を持つようになることもあります。こうして生まれた偏見や先入観が劇場のイドラです。
たとえば、テレビの情報番組でコメンテーターが発言していたとします。その人はその分野の専門家です。となると、「専門家の言うことだから」と、どんなことであっても、その人の言うことをすべて信じてしまう視聴者もいるかもしれません。それでは、自分の頭で考えたり、確認したりすることが欠けていることになります。