失脚以来6年ぶりになる田中角栄へのインタビュー
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■法律を使いこなした田中角栄
田中角栄は官僚を使いこなして、いったい何をしようとしたのか。
1980年、私は田中が失脚して以来6年ぶりのインタビューに成功している。このとき、「なぜ、あなたは法律を使いこなせるのか」と田中に尋ねたところ、こういう答えが返ってきた。
「法律というのは、ものすごく面白いものでしてね。生き物だ。使い方によって、変幻自在、法律を知らない人間にとっては、面白くない一行、一句、一語一語が、実は大へんな意味を持っている。すごい力も持っている。生命を持っている。面白いものです。壮大なドラマが、その一行一句にこめられているのです。
それを活用するには、法律に熟知していなければならない。それも、法律学者的な知識ではなく、その一行、その一語が生れた背後のドラマ、葛藤、熾烈な戦い、それらを知っていて、その一行・一語にこめられた意味がわかっていることが必要です。
私はそういう方向で法律や予算や制度を見ているのです。特にいまの法律や制度、仕組みは占領軍時代につくられたものが多く、法律制定の背景や目的がわかっていないと運用を間違うのです」
では、田中はなぜ、法律の一行一行に込められた意味がわかっていたのか。そのことを聞くと、田中は「今の日本の法律は非常に特異な法律です」と言った。
そこで、私が「何が特異なのか」と重ねて尋ねると、こんな答えが返ってきた。
田中「特異も特異、大特異です。それは、まだ占領軍が占領目的達成のために作った法律が多いからです」
田原「憲法……。」
田中「むろん憲法も何もかも、全てそうです。そして占領軍の目的は、といえば、これは簡単明瞭」
田原「何です?」
田中「第三次世界大戦が起これば、これは人類の破滅だ。〔中略〕 そこで、枢軸三国の国家体制を徹底的に打破し、細分化して、戦争の種を徹底的につぶす。そのために、一方では、勝者は勝者としての権利を放棄する。 〔中略〕 敗戦国をぎりぎりまで追いつめることはしない。第一次大戦のドイツで懲りているからね。そして一方で、民主化、自由化の名において、非戦力化、徹底的武装解除。 〔中略〕 一言で言えば日本弱体化が基本です」
田原「民主化という名の日本弱体化ですか」
田中「農地解放、婦人参政権、労働基本権の確立などとか、いいこともやった。しかし、基本は、徹底的な武装解除だ」
■日本を弱体化する法律と日本を強化する法律
田中によれば、GHQは日本の弱体化を民主化という言葉でごまかしたのだ。そして、GHQは経済復興をめざす吉田茂や鳩山一郎を嫌い、むしろ社会党や共産党を応援したと説明した。
田中は、「ところが」と言って続けた。
「平和の敵が別におることがわかった。それはクマ(ソ連のこと・筆者注)だ。ソ連を主軸にしたワルシャワ条約機構だ。そこで、いままでの生かさず殺さず政策から、クマに対抗するために、日本、西ドイツを再軍備させて、西側陣営の連帯強化を図ろうと、政策の大転換をした」
「アメリカは追放していた古い政治家たちをどんどん復権させた。一方、民主化のシンボルのように扱っていた社共、とくに共産党をつぶす策に出たわけです。日本弱体化のために作らせた法律を、今度は日本強化のために作り変えることになった。これが日本の法律の大特異な点だ」
そして、田中は「公営住宅法、新道路三法、水資源開発法、電源開発促進法、河川法一部改正法、国土総合開発法、各軍港都市整備法、北海道東北開発法、官庁営繕統一法、高速道路連絡促進法、新幹線建設促進法」と、自分が中心となって作った法律の名前をまるで歌うように並べた。
つまり、GHQは日本を弱体化するための法律をどんどん作り、政策転換後、今度は日本を強化するためにその法律を作り変えたというわけだ。
田中は、その両方をリアルタイムで知っている数少ない国会議員であった。