記者のペンが止まった……
「取材対応」をとおして見える岡崎慎司の並外れた力
新刊「未到 奇跡の一年」を上梓した岡崎慎司。「取材者」が見た、そのすごさの秘密に迫る.
レスターだけが自然体だった
4月上旬、イギリス・レスター。
ホテルのラウンジで打ち合わせをしていた岡崎慎司は、話を何度も中断して、彼を見つけたファンたちにサインをし、撮影に応じなければならなかった。
「たぶん、ホテルの従業員は全員来ましたね(笑)」
あまりの人数に、一緒にいた一人がそう言うと、
「最近、やっぱり多いですね。嬉しいっすよ」
対応をするたびに、「サンキュー、サンキュー」と感謝の言葉を口にされる。岡崎はそれに応えながら、ちょっとはにかんで、そう答えた。
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イギリスの中心部にある小都市レスターは、この4月あたりからちょっとした騒ぎになっていた。ご存じレスター・シティの快進撃である。昇格と降格を繰り返す、いわゆる「エレベータークラブ」として知られるレスターが、世界最高峰のサッカーリーグで残り10試合を切った段階で首位を走っている。
その事実は、世界中のサッカーファンから驚きのまなざしで見られていた。
「一体全体、レスターに何が起きたんだ?」
レスターの快進撃だけでも驚くべきことなのだが、なによりすごいのはその事実に対して、あまりにレスターの面々たちが「無頓着」であったことだ。取材中、首位を走るチームの雰囲気を尋ねても、岡崎は決まってこう言った。
「いや……、本当に変わらないんですよね。何も変わらない。たぶん、メンバーのなかで優勝を意識している選手っていないと思います」
――岡崎さんはさすがに意識していますか?
「いや、全然してないですね(笑)」
実際、岡崎の姿は優勝争い真っ只中にあるチームのメンバーとして想像するそれとはまったく違う、自然体そのものである。
打ち合わせに使う我々のメモ帳にはこう記してある。
「気負いなし、リラックス」