弱音をはく練習が足りていないあなたへ 悩みを抱え込みすぎずに生きるヒント【沼田和也】
序章「弱音をはく練習」より
■「弱音」で支える自律した自分
最後の最後まで誰にも言ってこなかったことを、ようやく教会で。なぜ、そんなに長いあいだ、誰にも話さなかったのか。なぜ、誰にも話すことができなかったのか。
それはたぶん、「自分のことは自分で判断できる」ということが、理想的な大人のイメージとしてあるからだろう。弱音をはくということは、自分のことを自分で処理できないという事実を他人にさらすことである。子どもならいい。だが大人になったら、自律していないといけない。心身に不調をきたした際には、精神科に通うことも含めて、自分で体調管理をしなければならない。なぜなら、自分のことは自分で判断できる、それが一人前の大人というものだから。
「なぜなら、自分のことを自分で判断できる、それが一人前の大人というものだから」。その「なぜなら」は自明で、絶対の前提なのだろうか。なぜ。そこで「なぜなら」とあっさりと自律が出てくるのだろう。人間は人々のあいだで生きる存在ではなかったか。何万年も昔から、群れで、助けあって、過酷な環境を生き延びてきたのではなかったのか。それがなぜ今になって急に、ひとりで自己完結した生き方を迫られるのか。個人はガチャガチャのカプセルのような殻で完全に閉ざされており、その殻の内部に、誰からも隠されたかたちで心を持っているのか。
わたしはこの「大人なら自律ができて一人前」という前提に対して、「たしかにそうかもしれないが、違うところもあるんじゃないかな」と答えてゆきたいのだ。自律ができることは社会人としてトラブルなく生きていくうえで必要かもしれない。けれども、トラブルを起こしさえしなければよい、トラブルを起こしたら人生ゲームオーバー……そんな前提をこそ、突き崩してゆきたい。そのためには弱音をはく練習をふだんからしておく必要がある。
(『弱音をはく練習 悩みをため込まない生き方のすすめ』本文から抜粋)
文:沼田和也
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目次
序章 弱音をはく練習
弱音をはく練習が足りていないあなたへ
第1章 自分で自分を追いつめないために
「もうこれ以上は無理です」
生きていく意味が分からなくなったとき
第2章 生きづらさの正体を知るために
ある日突然、学校に行けなくなった
ひきこもりだった当事者が語れること
生きづらさの原因は「心」?
第3章 嫉妬心で苦しまないために
コンプレックスを手放さないという選択
他人と比べて嫉妬に苛まれるとき
他人を羨み、悔しくて仕方がないとき
第4章 人間関係を結び直すために
人間関係に疲れきってしまったとき
ため息一つを共有してもらえたなら……
S N S 時代は「別れる」ことが容易でない
第5章 憎しみに支配されないために
怒りや憎しみを無理に手放さなくてもいい
対人トラブルを起こしてしまいがちな人の共通点
「我が子をどうしても愛せない」と慟哭する女性
D V 被害者が虐待を繰り返されないために
第6章 性的な悩みに苦しまないために
「不倫をする人」を断罪しても仕方がない理由
性的な悩みは公の場では語られない
「わたしは男/ 女です」と言いきれない人からの手紙
「よけいなお世話」によって救われてきた経験
第7章 理不尽な社会を生きるために
リストラ・ハラスメントに誰もが遭遇する時代
この苦しみは他人のせいか? 自分のせいか?
死にたくなるほどお金に困っているとき
第8章 孤独な自分を見捨てないために
なぜよりによってわたしが苦しむのか?
子どもの頃によく見た「死刑の夢」
無駄で面倒なことに、幸せは宿っている
「自分自身の物語」をつくり、その読者になる
第9章 他人と痛みを分かちあうために
「ずるい」という想いを認めることから
人は何歳からおじさんやおばさんになるのだろう?
不純な動機で善行をするのはだめ?
終章 弱音をはきながら生きる
他人を妬む気持ちはなくならない