『家なき娘』『ハイジ』名作童話に込められた社会的メッセージとは何だったのか?【緒形圭子】
「視点が変わる読書」連載第3回「名作童話に込められた社会的メッセージ」 『家なき娘』エクトル・マロ著
◾️18世紀後半のイギリスにおける劣悪な奴隷社会を訴えていた
エクトル・マロがこの物語を発表したのは、1893年。18世紀後半にイギリスで始まった産業革命は1830年代にはフランスに拡大し、ナポレオン三世が推し進めた結果、大きな成果をあげた。1852年、サンフレール合名会社はフランス北部のソンム県に『家なき娘』のバンダヴォワーヌ工場のモデルとなったジュート工場を開設。インドの黄麻を原料とするジュート繊維で作られた麻袋は輸送用として需要が急増し、『家なき娘』が発表された頃、工場は大発展を遂げていた。一方で生産重視の工場労働は劣悪を極め、小さな子供までも酷使される有様だった。
何しろ13歳の少女が朝から晩まで、糸の巻かれた管が積まれた重いトロッコを押し続けるのだ。そうした一日の重労働で手に入るのはたった10スウ(1フランの二分の一)。1スウで買える食べ物といえば小さなパン1個だ。
マロはペリーヌの労働状況や生活を克明に描くことで、当時現実のものとしてあった児童労働の問題を提起し、労働者が機械の奴隷にならず尊厳を守るために必要なものが人間の強い意志であることを示した。
行倒れて死にかけながらもペリーヌは自分の意志でマロクールを目指し、マロクールでの自活を続けた。その意志の強さが頑なな祖父の心を動かし、最終的にはバンダヴォワーヌ工場やマロクールという町を変えていくのである。
子供の頃はただ、主人公の身の上に自分を重ね合わせ、その成り行きをわくわくしながら読むばかりで、このような社会的メッセージが物語に込められていようとは、思ってもみなかった。
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