『家なき娘』『ハイジ』名作童話に込められた社会的メッセージとは何だったのか?【緒形圭子】
「視点が変わる読書」連載第3回「名作童話に込められた社会的メッセージ」 『家なき娘』エクトル・マロ著
◾️『ハイジ』に込められていたメッセージとは?
そうした視点から、『アルプスの少女ハイジ』(原題『ハイジ』)も読み直してみるのも面白い。
『ハイジ』もまた、『家なき娘』と同様、産業革命期の1880~81年に発表された。作者はスイスの女流児童文学者ヨハンナ・シュピーリ。スイスの山村ヒルツェルに生まれたシュピーリは教師になるべくチューリッヒに出て、フランス語とピアノを学ぶ傍らゲーテを愛読したという才女だ。『ハイジ』はゲーテの『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』から着想を得たといわれる。
孤児になった少女ハイジはアルプスの山の上に住む偏屈な祖父に預けられる。自然の中の生活を楽しむ無邪気なハイジに祖父の心は次第に和らいでいくが、そんな折、ドイツの富裕な貿易商ゼーゼマン家の娘クララの話し相手として、ハイジは突然フランクフルトに連れて行かれる。足が不自由で病身のクララはハイジが来たことを悦ぶが、ハイジは都会のお屋敷での生活になじめず、夢遊病になってしまう。アルプスに帰され、大喜びのハイジと祖父のもとにクララが遊びにやってくる。初めて偉大な山の自然に触れたクララは心身の健康を取り戻し、自分の足で歩けるようになる。
優れた自然描写と素朴な人間愛で知られる作品だが、この作品にもまた大きな社会的メッセージがこめられている。産業国家へと突き進むドイツと自然と共に生きるスイス、新しいヨーロッパと古きよきヨーロッパの融合である。
昔読んだ童話を再読し、そこに込められたメッセージを探ってみてはいかがだろう。案外そういうところに現代を生き抜くヒントが見つかるかもしれない。
文:緒形圭子
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