AV出演で私が何百枚と交わしてきた「契約書」や「出演同意書」のことについて【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第18回
早稲田大学在学中にAV女優「渡辺まお」としてデビュー。人気を一世風靡するも、大学卒業とともに現役を引退。その後、文筆家・タレント「神野藍」として活動し、注目されている。AV女優「渡辺まお」時代の「私」を、神野藍がしずかにほどきはじめた。「どうか私から目をそらさないでいてほしい・・・」赤裸々に綴る連載エッセイ第18回。
【何度引っ越しても捨てないもの】
大抵引っ越しが趣味だと言うと驚かれる。確かに煩雑な手続きや大量の荷物を段ボールに詰め込む作業などは面倒だと感じてはいるが、それ以上に住処を変えることの新鮮さと喜びの方が上回ってしまうのだ。きっと前世はころころ住処を変えるような生き物だったのかなと思っている。加えて、物を捨てることは得意な方で、引っ越す度に要らないものがパンパンに詰まったゴミ袋を引きずって、何度も部屋とゴミ捨て場を往復する。過去に自分が載った週刊誌の見本誌や新聞など、「もう見返すことはないな」と思うものはほぼほぼ捨てた。正直もったいないなと思いつつも、映っている自分が自分じゃない気がして手放してしまった。
そんな私が大事にケースに閉まって、何度引っ越しても捨てないものがある。それは今までに何百枚も交わした契約書、もしくは出演同意書と呼ばれる書類だ。分厚いプラスチックケースの中に乱雑ではあるが、デビュー作の契約書から引退した日の契約書までほぼ全ての書類がしまってある。
補足程度に説明するが、私が現役の頃は撮影現場に行って、作品を取り始める前に記入していた。自筆で書くのは契約日、本名、現住所で、最後に印を押すことで契約が締結する。契約書の内容は大体どこも同じで、メーカーによっては声に出して全文を読んだり、締結中にビデオを回したりと様々だ。
引退して、一般企業に勤めてから色々な契約書を目にしたが、この契約書自体かなり杜撰なものだったと感じてしまう。出演者のリスクが多い割に、作品のタイトルやどのように発売されるのか(その日撮影した素材が何個の作品に分割されるかなど)、空欄や未定のままのものも多かった。そのあたりについては新法が成立したことで、だいぶ改善されたはずだ。その点で法律の強制力があって良かったと個人的には考えている。