ジャニーズ問題で改めて考える。「大人と未成年者の性行為は、いかなる場合も大人に非がある」ということ【渡辺由佳里】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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ジャニーズ問題で改めて考える。「大人と未成年者の性行為は、いかなる場合も大人に非がある」ということ【渡辺由佳里】

 

■カトリック教会による児童性的虐待スキャンダルの真相

 

 私が住んでいるボストン周辺では、2002年に「カトリック教会による児童性的虐待スキャンダル」が大きな問題になった。

 ボストン・グローブ紙の「スポットライト・チーム」が徹底取材したもので、『スポットライト 世紀のスクープ』という映画にもなった。

 カトリック教会のボストン司教区は、政治家や富豪を含めた信者が多く、経済的にも大きな力を持っていた。司教区幹部はジョン・ゲーガンという神父が児童に対して性的虐待を行っていることを知りつつも、処分はせずに教区を移動させただけだった。その結果、ゲーガンは30年間放置され、6つの小教区で130人の児童が犠牲になった。

 だが、児童に性的虐待を行った神父はゲーガンだけではなかった。神父による未成年の信者の性的虐待と、教会による隠いん蔽ぺいは蔓延していた。その後何年にもわたるメディアの追及により、ボストン司教区は、2011年に性的虐待を訴えられた神父のリストが250人に及ぶことを認めた。警察も、メディアの活躍で、ようやく重い腰をあげて加害者の神父らを逮捕した。

 被害が広まった最大の原因はカトリック教会が子どもよりも神父を守ったことだが、その前に、「大人の神父と子どもの信者」という絶対の力関係が存在する。

 カトリック教徒にとって神父は絶対の力を持つ。夫婦関係から思春期の問題まで、信者は神父からアドバイスを受ける。また、神父は信者が親しい者にも打ち明けない秘密を「懺ざん悔げ 」として告白する相手でもある。親は神父のいいつけを守るように子どもに教えるし、児童に性虐待を行った神父の多くは、表層的には思いやりがあり、尊敬されていた。

 71歳になってようやく児童への性虐待で有罪になったポール・シャンリー神父も表層的には立派な神父だったが、新米の神父だった頃から長年にわたって多くの少年を犠牲にしてきた。たとえば、1983年に子ども向けの「公要理教室」に通っていた6歳の少年を連れ出してレイプしたというものだ。

 「6歳の子どもと高校生では立場がちがう」と思う人がいるかもしれない。冒頭の容疑者と女子高生のケースでも、「高校生にもなっていたら知識はあるはず。わかっていて行ったほうに落ち度がある」という反論が多かった。だが、ティーンの少年たちもシャンリーの犠牲になったのだ。たとえ身体が大きくなっていても、高校生は多くの意味でまだ子どもだ。大人ではない。

 シャンリーが狙ったのは、家庭問題や思春期の悩みで脆ぜいじゃく弱な子どもたちだった。14歳の少年ダニエルに父親がおらず、母親に心臓疾患があると知ったシャンリーは、相談に乗るふりでダニエルを呼び出してズボンを脱がせ、性器を弄もてあそんだ。そのときの心理をダニエルはこう説明した。「僕は怖かった、でも、ばかだった。彼が何を求めているのか僕にはわからなかった。お母さんは、性について何も教えてくれなかったから」。

 また、ボストンに家出少年が集まることを知っているシャンリーは、救済の奉仕のふりをして弱い立場にあるホームレスの少年たちを狙った。表層的には慈悲あふれる神父として。カトリックでは同性愛は自然愛に反する罪だとみなされている。そこで、自分が同性愛ではないかと感じる少年たちは深く悩む。シャンリーはそういった少年らを選んでターゲットにした。

 混乱している少年たちに「神父の自分がやることは神の意志である」と思い込ませ、自分を信用させ、ついに行為に及ぶというものだ。

 自分の性的指向に疑問をいだき、ノイローゼになっていた17 歳の少年ケヴィンは、その日のミサを行った司祭のシャンリーから「私が相談に乗ってあげよう」と優しく語りかけられた。そして、ふたりきりになった司祭館で、「君がゲイかどうか実験してみよう」と説得されてシャンリーから性的な行為をされた。それまで性体験がまったくなかったケヴィンは「彼はひどいことをした。変態的なことを」と振り返り、「ひどく罪の意識を感じた。すべてが邪悪で不道徳に感じた」とその直後の心境を語った。

 14歳であっても17歳であっても、未成年の犠牲者たちは、驚き、凍りつき、恐れを抱いて抵抗できなかったのだ。

 シャンリーはそれから何年にもわたってケヴィンをセックスの相手として利用し、彼にポルノ俳優になるよう薦めたりもしたという。

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渡辺 由佳里

わたなべ ゆかり

エッセイスト、洋書レビュアー、翻訳家。助産師、日本語学校のコーディネーター、外資系企業のプロダクトマネージャーなどを経て、1995年よりアメリカ在住。ニューズウィーク日本版に「ベストセラーからアメリカを読む」、ほかにCakes、FINDERSなどでアメリカの文化や政治経済に関するエッセイを長期にわたり連載している。また自身でブログ「洋書ファンクラブ」を主幹。年間200冊以上読破する洋書の中からこれはというものを読者に向けて発信し、多くの出版関係者が選書の参考にするほど高い評価を得ている。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。著書に『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『どうせなら、楽しく生きよう』(飛鳥新社)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)、『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)などがある。翻訳には、糸井重里氏監修の『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)など。

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